シリーズ「骨髄移植の真実②」:辞退するドナーは60%、加州は法改正へ

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 全米がん協会や赤十字社などといった団体と比べ、骨髄バンクの存在感が薄い理由の一つに、「骨髄移植=激痛」という方程式ができあがっており、拒否反応を示す人が多いことが上げられる。さらに、登録してすぐにドナーになれるとは限らない。中には登録から5年、10年後に連絡がくることもあり、「妊娠中」「病気になった」「気が変わった」「家族の反対」など、登録時から生活状況や健康面に変化があることが多いのも理由だ。
 また、「適合の可能性がある」との連絡から、ドナーになるまで多くの検査や採血がある。ケースバイケースだが、移植前に平均3回から5回は病院を訪れなければならず、ドナーはこの間、会社を早退したり、半休をとったりと、手術日とその後の休養以外にも時間的な束縛があるため敬遠されがちだ。実際「適合者の可能性があります」と連絡を受けてからドナーを辞退する登録者も多く、アジア系のコミュニティーでの辞退率は60%にも上るという。
 A3Mは、「もちろん、ドナーの方には登録後から手術を受ける日まで、どの段階でも辞退する権利があります。ただ、多くの患者さんは時間と闘っています。また、適合者が見つかった後、移植に向けて患者さんにはさまざまな投薬が施されるため、手術直前に辞退となると、患者さんの体はもちろん、精神的な負担も大きい」と、辞退はなるべく早い段階が好ましいとアドバイスしている。
 これらの問題を少しでも解決すべく、現在カリフォルニア州では、「臓器および骨髄移植ドナーの有給休暇法」(SB1304)が上院議会に提案されている。現行の州法では、「すでに与えられている有給休暇を使い果たした州職員に限り、臓器移植ドナーで最大30日間、骨髄移植ドナーで最大5日間の有給休暇を与えられる」となっているが、2月に提案されたSB1304では、①有給の有無にかかわらず、臓器および骨髄移植ドナーには特別有給休暇が与えられる②州職員のみならず、一般企業も同法に従う③同休暇から戻ってきた社員には、休暇前と同じ職務を与える④臓器および骨髄移植ドナー休暇を取得した社員に企業が報復することを禁ずる⑤権利を侵害された社員は、休暇を要求する私権がある―が加えられた。
 全米骨髄バンクによると、同様な臓器および骨髄移植ドナー有給休暇法が施行されているのは全米で11州(08年現在)。関係者らは、「加州でも同案が可決されれば、ドナー登録者がさらに増える」と期待を寄せている。
 
登録から15年後に連絡
ドナー トニー・キムさん

 韓国で生まれ、9歳の時にアメリカに移民してきたパロスバーデス在住のトニー・キムさんがドナー登録をしたのは、大学生だった15年前。教会のメンバーの1人が白血病を発病、アジア系のドナー登録を呼びかけていたのがきっかけだった。しかしその後、何の音沙汰もないまま大学を卒業し、就職、結婚、娘の誕生と、キムさんの生活環境は大きく変わった。

トニー・キムさん一家。(右から)妻のユン・キョンさん、長女のローレンちゃん、トニーさん、次女のマデリンちゃん


 登録から15年後の08年、「適合の可能性があるため、血液検査を受けてもらえませんか」と、全米骨髄バンクから突如連絡がきた。とりあえず血液検査のため病院へ行き、結果が出るまでの一週間、骨髄移植について調べた。15年前、白血病で苦しんでいる人を助けたい一心で登録したものの、手術がどんなもので、自分や患者への健康リスクなど、よく理解していなかった。
 「調べてみて思ったことは、移植を受ける患者さんが日々経験する苦しい化学療法や移植後に起こりうる拒絶反応などに比べたら、ドナーとして自分が経験することは何でもないということ。患者さんが生きるためにこれだけ大変な思いをしているのに、健康に生れた自分のことだけを考えるなんて利己主義だと思った。逆にドナーになりたい気持ちが強まった」
 
 患者は14歳の日本人
 
 一週間後に言い渡された結果は、「患者さんのHLA型と、99・9%マッチしています。どうしたいですか?」との内容だった。キムさんには、すでに答えが出ていた。「苦しんでいる患者さんを一日でも早く救ってあげたいので、ドナーになります」。そう力強く答えた。
 米国では、患者のプライバシーを守るため、ドナーには年齢や性別などといった最小限の情報しか与えられない。しかし、患者とドナー双方が同意すれば、手術から1年後に会うことが可能となる。

キムさんが受けた手術法「PBSCT」


 キムさんの骨髄とマッチしたのは、14歳(当時)の日本人女性だと伝えられた。採取方法は、麻酔なしで腕から末梢血幹細胞だけを採血する方法(PBSCT)だった。今や、米国内で行われる骨髄移植の75%がこの手法だ。
 PBSCTは、人工透析のように腕に針を刺しチューブを伝って採血。右腕のチューブを伝って機械に入れられた血液は、機械の中で幹細胞(Stem cell)だけを分別、バッグに入れ、残りの血液を左手に付けられたチューブを伝ってキムさんの体に戻すというもの。時間は、5、6時間かかった。
 PBSCT中はテレビを見たり、食事を食べさせてもらったり、昼寝をするなどして過ごした。「痛みは、フルー接種の後のように針を刺した部分が少し痛む程度。ただ、5時間も両腕を伸ばした状態だったので、しばらく腕を曲げることができなかったが、それ以外に不便なことはなかった」。1時間ほど病院で休憩し、帰宅した。
 義母が経営するベニスの日本食レストラン「ハマ寿司」のマネジャーを務めるキムさんは、義母の勧めもあり念のため1週間仕事を休んだ。「さすがに運動は避けたが、その日から普通に生活ができた」と振り返る。骨髄バンクから連絡をもらい、PBSCTを受けるまでの期間は約2カ月。検査のための採血や白血球を増やすための注射、手術日を含め、計6回クリニックを訪れた。
 ドナー経験を通じ、キムさんは「白血病&リンパ腫ソサエティー」のための資金捻出イベントをハマ寿司で催した。「一人の人の命を救えると思えば、ドナーが感じるちょっとした不快感や時間の束縛は大したことではない。PBSCTは痛みもなく、麻酔も必要なく、とてもシンプル」と、周囲にドナー登録を勧める。「うちの店には、日系、韓国系、ラテン系、白人、ハーフなど、さまざまな人種がいる。近いうち、ハマ寿司にA3Mのスタッフを呼んで、従業員全員に登録をしてもらうのが目標です」
 「1年後、レシピアント(移植手術を受けた患者)と対面したいか」という質問に、キムさんは「イエス」と答えた。しかし手術から2年経った今でも、レシピアントのその後の情報を知らされていない。
 A3Mによると、通常「レシピアントの健康状態」「面会の有無」など、ドナーには何らかの情報がもらえるはずだといい、情報がまったくない場合の多くは、レシピアントの在住国が米国外の可能性が高いという。
 プライバシー保護は、各国によって異なる。例えば日本の場合、いかなる場合であってもレシピアントの健康状態が外に漏れることはなく、レシピアントとドナーが会うことも認められていない。
 「今でも彼女が元気にしているのか気になるよ。いつか会えればいいなと思っているけど、今はとにかく彼女が元気でいてくれることを願っている」
【取材=中村良子】
 
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