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シリーズ「骨髄移植の真実①」:人種との深い関係、異人種間結婚で複雑化

 「骨髄移植のドナー」と聞いて、多くの人の頭にはまず、「激痛」という二文字が浮かぶかもしれない。しかし、どれだけの人が、骨髄移植には全身麻酔で骨から骨髄液を抽出する方法と、麻酔なしで腕から末梢血幹細胞(PBSCT)を採血する方法の2種類あることを知っているだろうか。またどれだけの人が、米国内で行われる骨髄移植の75%がこのPBSCTであることを知っているだろうか。そしてどれだけの人が、適合者が見つかる確率は自身の人種に深くかかわることを知っているだろうか—。生きるため、日々適合者を待ち続ける患者、「苦しんでいる人を助けたい」と骨髄を提供したドナー、移植を受け生きる喜びを日々噛みしめるレシピアント、そして専門家。それぞれの立場から、骨髄移植の実情についてまとめた。
【取材=中村良子】

 ウエストロサンゼルスのクリッシー・コバタさん(27)が体の異変に気付いたのは、今から2年前。広告代理店に勤務し、活発に毎日を送っていた25歳の時だった。「どこにもぶつかった記憶がないのに、体中に青あざができていたの」。それが、すべての始まりだった。
 検査の結果、骨髄機能の異常により正常な血液をつくり出せない「骨髄異形成症候群」(MDS)と診断され、前白血病状態と言われた。病気の進行を遅らせる薬物療法はあるが、治療法はない。助かる可能性は、骨髄移植しかないと宣告された。「MDSや骨髄移植なんて、今まで聞いたことも考えたこともなかった。わずか25歳で、人生を180度変えてしまう診断を受け、言葉では言い尽くせないほどの不安に襲われた…」

骨髄移植と人種の関係

内科、血液、腫瘍を専門とするUCLA医学部教授、新原豊医師


 骨髄移植をするためには、まず移植を必要としている患者と同じ白血球の血液型(HLA型)を持つ骨髄提供者(ドナー)を見つけなければならない。現在採用されているこのHLA型適合性検査を完成させたのは、UCLA名誉教授のポール・テラサキ医師だ。
 内科、血液、腫瘍を専門とするUCLA医学部教授で、鎌形赤血球病治療薬の開発に努める新原豊医師によると、HLA型は父親と母親からそれぞれもらった血液の遺伝子の組み合わせ(全4通り)で決まるため、同じ両親から生まれた兄弟姉妹から同じ組み合わせを持つ人が見つかる確率は25%。残りの可能性は、骨髄バンクに登録されている非血縁者からとなり、遺伝性のため同じ人種から見つかることがほとんどだという。
 新原医師によると、「日本人はほぼ単一人種のため、各自が持つHLA型のパターンがもともと似ており、日本人同士でマッチが見つかる確率は90%と非常に高い」という。白人系も元をたどるとそのほとんどが北欧系のためマッチ率は80%と高いのに対し、アフリカ系は5%弱。これは、アフリカ系とひと言で言ってもさまざまな人種がおり、各人種が持つHLA型のパターンが均一でなく数が多いからだという。
 そして、ハーフや複数の人種背景を持つ人にとっては、このHLA型のパターンがさらに複雑化し、自身と全く同じ人種背景をもった登録者がいるとは限らないため、適合者が見つかる確率はさらに低くなる。日系3世の父と白人系の母のもとに生れたコバタさんのケースがまさにそうだ。兄が適合者でなかったため、骨髄バンクを通してのドナー探しが始まったが、その道は想像以上に険しい。

コバタさん一家。(右から)クリッシーさん、父親のマークさん、母親のサンディーさん、義姉のアンさん、兄のランディーさん、甥のエイダン


 全米骨髄バンクには現在、約800万人の登録者がいる。うち、74%を占めるのが白人系(600万人)、10%がヒスパニック/ラテン系(80万人)、アジア系とアフリカ系はともに7%。そして、コバタさんのように複数の人種背景をもつ登録者は、たった3%。
 コバタさんの適合者を見つけるため、全米骨髄バンクをはじめ、米国が提携を結ぶ日本やその他アジア諸国の骨髄バンクすべてを照合した。しかし、2年が経過した今でも、コバタさんの適合者は見つかっていない。コバタさんは、「適合者を見つけるのに、ハパ(hapa=アジア系ハーフ)であることがネックになるとは思ってもいなかった」と話す。
 コバタさんは現在、薬物治療を受けていないため、このままドナー探しが長引けば、白血病を発症する可能性もある。「つらいけど、前向きに考えなければやっていけない。私には、心から支えてくれる家族や友人がいる。彼らと一緒にいると、きっと乗り越えられる、きっと適合者が見つかる、という気持ちにさせてくれる。明るい未来があると思っていないと、すぐに目の前の道が暗くなってしまうの…」
 忙しい仕事の合間を縫って、より多くの人に骨髄移植の事実を知ってもらおうと広報活動にも力を入れる。「私たちは皆、祖先をたどればつながっている。あなたにも、誰かの命を救うことができるかもしれない。私には、骨髄移植しか生きる道はない。どうか、ドナー登録を検討してほしい」と、訴えている。
 
文化的背景も影響
「A3M」永田あゆみさん

 
 「国際結婚や異人種間結婚の増加とともに、今後、コバタさんのようなケースはさらに増えていく」と話すのは、「A3M」コーディネーターで日系を担当する永田あゆみさん。「ドナーが見つかるかどうかは確率の問題。ドナー登録者が多くいればいるほど、適合者が見つかる可能性は高くなる。まずは骨髄移植の事実を知って」と話す。
 「A3M」は1999年、アジア系をはじめ、ハーフやさまざまな人種背景を持つマイノリティーのドナー登録を増やす活動を目的に、リトル東京サービスセンター内に設立。日系、中国系、韓国系、フィリピン系、ベトナム系、南アジア系、ヒスパニック系などの窓口を設け、各コミュニティーと協力し、全米骨髄バンクとともに活動する。
 全米骨髄バンクによると、800万人いるドナー登録者の中で、アジア系は55万人と全体の7%足らず。登録可能な18歳から60歳のアジア系が全米に約660万人いることからみても、登録者数が低いことが分かる。
 その背景には、「文化的要素もある」と永田さんは指摘する。「アジアの文化の中には、健康な体の一部を取り除くことは、体を弱らせるといった概念があったり、また他の人種に比べ家族の意見を尊重する傾向にあり、本人がドナー登録を希望しても、親や家族の反対で断念してしまう人もいる」という。

 
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