世話になっている人にこそ、なかなか恩が返せないと思っています。それは、受けた恩に対して返礼をしたとしても、十分に返したと思っていないうちから、また世話になってしまうことが多いからだと思っています。つまり、恩を与える人はその恩恵を受けることなく与え続けます。そういう人は他人に何かしてあげたいと考えているだけで、恩恵を受けたいと思って行動しているわけではないからです。そう、恩は貸し借りするものではなく、常に与えるべき種類のものです。
 だいたいの場合、そうこうしているうちに、恩を返したいと思っている方がいなくなったりして、結局ご本人への恩返しができなくなります。そうすると、その恩は当事者以外の第三者へ返すことになってしまいます。
 返す本人にとってみれば返したという気分になれないので、さらに第三者へさまざまな恩を売っていくことになります。これを「恩おくり」と言って、恩の正の連鎖です。実はこういう感情が人間同士を支えています。
 問題は負の連鎖です。過去に借りがあり、当事者同士が返せなかった場合、その借りが次の世代に引き継がれてしまいます。例えば戦争責任などはそういった部類に入るかもしれません。何世代にも渡って、返しようもない負の遺産の清算のために苦慮をすることは意味のあることだとは思いません。
 そこでこのように考えると心が軽くなります。受けた恩は、実際に受けた方からのものではなく、過去から自分に与えられた恩恵である。だからその恩は将来の第三者に返していけば良いということ。また、受けた負の思いは過去から連鎖してきたものであり自分への負債ではないのです。将来に引き継がず、相手への負の思いを残さず、自分のところで断ち切ること。こういった心の切り替えができる人に、さらにたくさんの恩恵がやってきます。【朝倉巨瑞】

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