再入国許可書申請に思う

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 子供が巣立ち、自分たちも退職すると急に、私たち夫婦は日本に足を運ぶことが多くなった。
 同世代の者に比べると幸運なことに、日本には親が4人、それぞれの田舎にいる。とはいえ、アメリカに戻る前に別れを告げる時はいつも、今度帰って来るまで元気で居てくれるだろうか、ひょっとしたらこれが最後になってしまうのではと思わずにはいられない。
 ところで、永住権者のままでいる私には9・11以来、「何でそんなに頻繁に国外へ?」と、アメリカ入国審査の際の風当たりがどんどん強くなっているのが感じられる。
 「高齢の両親がいるものだから」と答えると一度、「日本人は皆、そう言うんだよね」との言葉が返ってきたのには驚いた。それが理由になるなんて信じられないとでも言いたげな口ぶりに、文化が違えば、親孝行という概念も理解してもらえないことがあると初めて気づかされた。
 それでも、親孝行が出来るのはせいぜいこの数年だし、他の用事も生じたのを機会にこのほど、リエントリーパーミット(再入国許可書)を申請した。これは本来、1年以上出国する場合にのみ必要とされる書類だ。しかし入国審査の厳しさに近ごろは、弁護士事務所によっては、3カ月以上の国外滞在の場合は申請を勧めているという。永住権を放棄しないとの意思表示でもある。
 結局、申請して1カ月半ほど後に指紋採取があり、手続きが終了。これで2年間(場合によっては1年間)は、心配することなく日本に出かけて戻って来られることになった。
 再入国許可書申請の遠因が10年前の9・11ならば、自分の帰る場所がどこであるかを私に悟らせたのは、昨年の東日本大震災だ。
 国際結婚でロサンゼルスに住んでいた日本の女性歌手が、大震災をきっかけに日本に帰りたくなったことを離婚原因の一つとして挙げていたが、東京で震度5の揺れを体験直後の私に浮かんだのは、子供たちのいるアメリカにどうしても帰りたいという思いだった。数年のつもりで始まったアメリカ暮らしも数十年となり、次はいよいよ市民権の申請を考える時なのだろう。【楠瀬明子】

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