伝統の黒豆に別れを告げて

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 勤務先の日系コミュニティーセンターの日本の家庭料理教室の11月は恒例のお正月料理で、4人の担当者が3時間で12、13種類のお節料理を次々紹介する。
 縁起担ぎの言葉遊びも含めて、歴史の端々を話しながらクラスを進めてゆくのだが、とにかく日本料理は下ごしらえに時間がかかる。
 1年まめに暮らせるようにとの思いを込めて、2日がかりで煮上げる黒豆が、ふっくらと艶良く煮上がった時は、まるで大仕事を成し遂げたような満足感にみたされる。
 この黒豆を参加者に紹介して試食をしてもらうと誰もが喜んでくれるのだが、さて自分で作るかどうかを訊ねると「ちょっと時間が掛かり過ぎて…」と言う。どうもアメリカ人は日系人も含めて気が短いようだ。いや現代人はと言い換えたほうが良いのかもしれない。
 私自身、じっくり火加減を見ながら煮豆に挑戦するほど時間があるわけではないが、まあ1年に1度のことではあるし、祖母も母もしてきたことだしと、われながら健気に「伝統の継承」にこれ努めてきたのだが、いくら頑張ってみても参加者が作ってくれないことには意味がない。そこで思い直して、「短時間でできる黒豆」の煮方を探求(?)—つまり日常フル活用している電子レンジ様にお世話になることにして、泣く泣く2日がかりの黒豆に別れを告げた。
 1回目、失敗。味は良く、艶も良いのだが煮上がりが固い。どうやら味付けが早かったらしい。レシピどおりにゆかない電子レンジの癖を呑み込んでいなかった。
 そこでこのコラムを書きながら2度目の挑戦、どうやら上手くゆきそうです。ふとテレビを横目で見ると、大統領選挙の前日のこととて、なんと宇宙から飛行士も投票するという。地上の早期投票を宇宙にまで拡げた世の変遷。「投票日には他州に行っておりまして」などという時代遅れな棄権の言い訳は通用しない時代である。
 そりゃあそうでしょう、頑固な私が電子レンジで黒豆を煮る時代ですから…。
 黒豆の煮方が大統領選挙になんのかかわりがあるのかって?
 別に…そんな意地の悪い質問はしないでください。【川口加代子】

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