ハンドライティング

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 先日、インプラントの手術後、歯医者から痛み止めの処方箋を渡された。活字体と筆記体が複雑に絡んだハンドライティング(手書き)で、読みにくかった。おそらくネイティブの薬剤師は、直ぐにわかるのだろう。
 ふと英作文のテストの時の出来事を思い出した。日本の中学生の時だ。文章を答案用紙に書き込んだ。得意科目だし、われながら全て完璧な出来だと自信満々だった。
 しかし結果は、残念にも99点。どこを間違えた? 幾度も確認した。すると”Mary…”で始まる文章の箇所で「–1(マイナス1)」と赤字で1点減点されている。でもなぜ…? 文法も正しい。クラスメートに聞いても、??の反応。納得がいかず、抗議しようと職員室に向かった。
 英語のH先生は、真剣な目で説明し始めた。
「これは人名ですよね。最初の文字を大文字にしなければなりませんよね」
「えっ?」
 自分が筆記体で書いた”Mary”の”M”の文字のサイズが、もっと大きくなければいけない、というのが減点の理由だった。正しい”M”を先生に書いてもらうと、3ミリ程”M”が縦横大きくなった。先生の目には、これが英語の大文字のサイズである、という判断だった。
 指摘された自分のミスを重大に受けとめた。油断が不注意を生んだのだ。悔しい思いで帰宅すると、ノートを開き、ページ一杯に”Mary Mary Mary Mary Mary Mary ……”と夜中遅くまで必死になって サイズが完璧になるまで何百回も書き込んだ覚えがある。
 アメリカの大学に留学し、教授の書いた黒板の文字が、枝毛が絡んだ唐草模様のようで仰天した。友達からの手紙も、象形文字の落書きのようで読めない。”M”の文字のサイズを語るどころか、これが “M”? と思うほど崩れている。
 サイズや形にこだわる日本の英語教育に疑問を抱き、憤慨した時もある。しかし、基本に忠実に、規律を遵守し、詳細まで気を配り相手に伝わるよう丁寧に文字を書くことに徹底したH先生の教えもしっかり心にしみ込んでいるのも事実である。
 とりあえずその夜は、無事に手に入れた痛み止めを飲んでぐっすり寝た。【長土居政史】

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