「村上海賊の娘」

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 「全国書店員が選んだ一番売りたい本」をキャッチコピーに掲げた「本屋大賞」という賞がある。
 10年前に設定されたこの賞に今年輝いたのは「村上海賊の娘」(和田竜著)。受賞発表と同時に75万5千部へ大幅増刷されている。「本屋大賞」さまさまだ。
 「海賊」をテーマにした小説や映画はこれまでにもいくつもある。ソマリア沖に出没する海賊テロリストはいただけないが、歴史小説や活劇に出てくる海賊にはなんとなくロマンがある。
 しかも「女海賊」の話である。カリブ海で暴れた女海賊の中には「男装の麗人」がいたらしい。が、瀬戸内海を席巻した海賊王、村上武吉の娘・景(きょう)は「悍婦で醜女」。もっとも「長身にまとった小袖の流れるような曲線、巨眼と異様に高い鼻筋、そして細長い首筋」はどこか神々しさを感じさせる、と著者。つまり「醜女」とはあくまでも戦国時代の「美醜」の基準。景が現代では美人と評される女性であることが読み進むうちにわかってくる。
 その景が織田信長に兵糧攻めに遭っている一向宗(浄土真宗)・大坂本願寺を助けるために逡巡する兄や弟を尻目に第一次木津川合戦に参戦、天下の信長に立ち向かう。
 『萩藩譜録』という古文書に「村上武吉には実の娘がいた」との記述がある。だとすれば、想像の翼を広げて、その娘が戦国乱世の戦う「女海賊」であってもおかしくない。
 なぜ読まれるのか。
 日本人の胸の内を覗くために訪日した「朝鮮日報」のイ・ハンス記者は、「長期不況に直面する一方、格下と考えていた韓国や中国の国力が高まり、日本人は不安感を抱いている。だからかつての強い日本を懐かしむためにこうした歴史モノを読むのだ」と診断している。
 果たしてそうだろうか。売れているキーワードは「村上海賊(水軍)」「女海賊」、そして「反体制」の三つ。戦国時代にハッパのような美女が荒くれ男たち相手に戦う、そのカッコよさに酔いしれたかったのでは、と思う。
【高濱 賛】

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