スポットライトはヒーローに

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 「みんな逃げた?」「ノー。お父さんがまだ中にいるのよ!」
 激しい爆発音と燃え盛る炎に唖然とする人々。響きわたる女性の叫び声。火は住宅1棟を焼きつくし、あたり一面は黒い煙で覆われている。
 住んでいたのは73歳の男性で、肺の疾患から酸素タンクを装着して生活していた。とてもひとりでは逃げきれない。誰もが絶望的だと思った。とその時、黒い煙の中から突如おじいさんをおぶった男性が走って現れた。
 これは先日カリフォルニア州フレズノで起こった火災現場での出来事。おじいさんを救出したのはたまたま付近を通りかかった男性で、中にまだ人がいることを知ると炎の中に飛び込んでいったという。そして助け出すと、静かにその場から立ち去った。
 命の恩人は一体どこから来てどこに行ってしまったのか。何よりおじいさんはこの名無しのヒーローにどうしてもお礼が言いたかった。
 唯一の手がかりは目撃者が携帯電話のカメラで撮影していたビデオ。映像から男性がロサンゼルス・ドジャースの青い野球帽をかぶっているのが分かった。全米中のテレビ局が放映し、やっと正体が判明した。
 男性の名はトム・アーティアガさん(43)。3人の子どもたちの父親でトラックの運転手をしている。おじいさんはやっと命の恩人と再会を果たすことができた。
 「とにかく居ても立ってもいられず、飛び込んで行ってしまった」。その場を立ち去ったのは注目されるのを恐れたから。「僕はヒーローなんかじゃない。青い野球帽をかぶったごく普通の男なんです」。ヒーローとは素晴らしいことをごく当たり前のことのように出来る人をいう。
 ドジャースのファンだというアーティアガさんに同球団のトミー・ラソーダ元監督から粋なプレゼント。来シーズンの始球式への招待状だ。嬉しくて涙ぐむアーティアガさん。「君は真のヒーローだよ」。アーティアガさんは来シーズン、憧れのグラウンドに立つ。スポットライトはいつだってヒーローに輝く。【吉田純子】

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