ビジネスワイド:日米のホテル経営を聞く【下】

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ホテルは多国籍軍。(左から)アルバニア系イタリア人、アフリカ系米国人、韓国系米国人、三好社長。インド人、フィリピン人、アルメニア人の役員が運営に携わっている(インターコンチネンタルホテル提供)

ホテルは多国籍軍。(左から)アルバニア系イタリア人、アフリカ系米国人、韓国系米国人、三好社長。インド人、フィリピン人、アルメニア人の役員が運営に携わっている(インターコンチネンタルホテル提供)


インターコンチネンタルホテル社長
三好麻里さん  

 ロサンゼルスのセンチュリーシティーにあるラグジュアリーホテル「インターコンチネンタルホテル」で社長を務める三好麻里さん。今年8月には住友不動産が日本で展開するホテルチェーン「ヴィラフォンテーヌ(株)」の社長にも就任した。現在、日米千人以上の従業員のトップに立ち、ロサンゼルスを拠点に日本でも活躍する三好社長にホテル経営について聞く最終回。【取材=吉田純子】

「ホテルは人間ビジネス」
思いやりの心をすべての人に

 「幼い頃は人見知りで、成長が遅く体も小さかった」。身長が伸び始めたのは15歳頃から。体が小さかったことへのコンプレックスが強く、自信のない子供時代を過ごしてきたという。出来ることも限られ、いつもみんなから「大丈夫?」と気にかけてもらうような子供時代。だからこそ人を思いやることがどんなにその人にとって心の支えになるかを知った。
 「従業員には見返りを求めず、愛情をたっぷり注ぎます。だから感謝されると、国が違っても気持ちは伝わったんだなと思うんです」。女性の経営者だからそういう感覚を大切にしているかというとそうではないという。「たとえ表現方法は違っても愛情は女性だけでなく男性だって持っているものだから」。今では従業員みんなが三好社長のことを「ママさん」と呼ぶ。
 米国と日本でホテルを経営し、日米で従業員を採用。人材育成にも携わってきて思うのが、「大事に育てられた子は必ず人を大事にする」ということ。「愛情を注がれて育った子は心から相手に何かしてあげたいと自然と思うようです。その心がホテル経営にも大切なのです」と力を込める。
 「ホテルは人間ビジネス」。ホスピタリティーの精神がある人、「何かをして人を喜ばせたい」という思いが強い人でないと難しい。例え裏方として働いていても、お客さまがどういう気持ちでホテルに泊まられているかを考えられる人でなければいけない。パッションを持ち、お客さまにはさらにエクストラのサービスを提供する。「企業は数字がすべてですが、きちんと正しいことをしていると必ず後から数字はついてきます。『このホテルがいい』と思って頂けたら必ずまたお客さまに来て頂けます」

念願のアメリカ行き
夢は決してあきらめない

憧れの地ニューヨークに来たばかりの頃の三好社長。後ろに見える世界貿易センタービルにはテロ当日もアポイントが入っており、向かう途中での惨劇だった(本人提供)

憧れの地ニューヨークに来たばかりの頃の三好社長。後ろに見える世界貿易センタービルにはテロ当日もアポイントが入っており、向かう途中での惨劇だった(本人提供)

 20代後半で渡米。とにかく日本を飛び出してアメリカで何かしたかった。20代の時にその思いが強くなり、行けば何かできると思っていた。しかし、実際にはビザの問題などさまざまな困難にぶち当たった。でもどんなに難しくても夢をあきらめようとは決して思わなかった。アメリカに行けないのだったら「せめて自分の部屋をMade in Americaに」と歯ブラシから歯磨き粉に至るまですべてをアメリカ製にした。夏休みには毎年アメリカに行き、テレビの英語ニュースも英語の字幕を設定して見ていた。「ニューヨーク行きが決まった時は『夢を掴んだ!』と嬉しくてたまりませんでした」
 ニューヨークでは住友不動産の法人営業部に勤務。会社はニューヨークにオフィスビルを所有しており、テナントを入れるための誘致をしていた。日本と同様ニューヨークでも一軒一軒飛び込み営業をして忙しい日々。でも不思議と辛いと感じたことはなかった。夢のニューヨークでの生活が心から楽しかったのだ。
 そんなある日起こったのが米同時多発テロ。世界貿易センタービルには毎日通っており、テロ当日もアポイントがあり、向かっていた最中の出来事だった。
 知り合いを何人もなくした。大きい鞄を抱えて営業をしていた時、「自分の所にはないけれど、ここなら」と目の前で他社に電話をしてくれた人もいた。「本当にみなさんに良くしてもらいました。そんな人たちを一瞬でなくしてしまった」。あれ以来考え方が大きく変わった。「明日が普通に来ない」ことを知り、1日1日を大切に生きようと決めた。今日伝えるべきことは今日伝え、明日に持ち越さない。「彼らの分まで生きよう」と心に刻んだ。

チャレンジング制度を導入
隠れた才能引き出し開花

従業員から送られた感謝のメッセージが書かれたカード

従業員から送られた感謝のメッセージが書かれたカード

 「今いる部署で花は開かなくても、他の部署では花が咲くかもしれない」。人には必ず得手不得手がある。これができなかったから能力がないと決めつけるのは一方的なメジャリングでしかないと三好社長は語る。隠れた才能を見つけてあげるのがマネージメント。だからチャレンジング制度を導入した。ただし2年以上の条件付きで、もし元の部署に戻りたかったら戻れる保険付き。その人にとってはそのチャンスが人生の大きな転機になったりすることもある。「部下たちにも人に優しくなれるボスになってほしいから、本来なら転職しないとできないことを社内でできるようにチャンスを与えてあげたいのです」


3年計画の目標設定
壁なくしコミュニケーション強化

 「私はいつも3年計画を立てています」。88年にホテルはJWマリオットから始まり、パークハイアット、インターコンチネンタルへと移り変わった。パークハイアットの最後の年が1番業績がよかったため、3年後にその時の業績に到達できるよう目標を掲げた。
 ただ当初は到底埋められないほどのギャップがあった。コツコツと小さな目標を設定しひとつずつ達成していく地道なみちのり。もともと三好社長は不動産業界の出身。「ホテル経営のことは何も知らずとにかくたくさん勉強しました」
 人材は6、7割入れ替え、オフィスも変えた。今までは米国流にすべて個室、ドアはあいているのに隣でメールで話しているような状態。しかしある時従業員を集め皆で壁をハンマーでぶち壊した。チームワーク、フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションを強化するため個室をなくし、営業部は日本流に「島」。個室は役員だけだがすべてガラスばり。これらをいざ実行してみると、営業部が仕事がしやすいと喜んだ。相手が何に取り組んでいるか分かるため協力しやすくなったのだという。
 「でもはじめは儲かっていない会社だったので、従業員自ら手作りの机を作ってくれたのです」。既存のものを買うと1000ドル以上するため、材料を購入し作ってくれたという。「彼は技術部長だった人で他界してしまいましたが会社を非常に愛していました。彼の死後、娘がホテルを訪れた時『絶対ここで結婚式をあげたい』と言ってくれた時、涙が出ました」。今ホテルは3年連続で増収増益を達成。「従業員みんなにいい報告ができたと思います」と三好社長は語る。

従業員全員に配る手作りのクリスマスカード。すべてに自ら折ったおり鶴が添えられている(インターコンチネンタルホテル提供)

従業員全員に配る手作りのクリスマスカード。すべてに自ら折ったおり鶴が添えられている(インターコンチネンタルホテル提供)

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