星港(シンガポール)の街かどで ④:在シンガポール日本大使館参事官 伊 藤 実 佐 子

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7人のプロ審査員に混じって、緊張気味の素人審査員がひとり(左から3番目)

7人のプロ審査員に混じって、緊張気味の素人審査員がひとり(左から3番目)

 シンガポールにラーメン店がいったいどれくらいあるのか、見当がつかない。若者が多く集まるブギス地区、とあるショッピングモールに、9店のラーメン店が集合体で営業している大型店舗がある。広いフロアは日本の田舎風にしつらえてあり、テーマパークさながらである。日本から進出してきた特徴のあるラーメンを出す店舗ばかり、軒を並べて営業しているのである。隣同士に同業他社がいるホーカーといわれるフードコート文化が根付いている当地ならではであろう。

 

審査ポイントを書き込むスコア。写真のラーメンは、野菜たっぷりの味噌ラーメン。追加するスパイスは、シンガポールでよく見るチリや豆板醤ではなく、すりおろしニンニクか、焦がしたタマネギでつくった香ばしいたれ

審査ポイントを書き込むスコア。写真のラーメンは、野菜たっぷりの味噌ラーメン。追加するスパイスは、シンガポールでよく見るチリや豆板醤ではなく、すりおろしニンニクか、焦がしたタマネギでつくった香ばしいたれ

ここでは、昨年から既存店舗に未出店舗が加わって、品評コンテストが開かれている。今年は、私も審査員7人の一人として招待された。6種類の味見をし、見た目、スープ、トッピング、麺、全体のバランスの観点から点数をつける。参加審査員の一人は大手外資系ホテルの西洋料理のシェフ、一人はローカルで話題のパティシエ、そしてあとの二人は老舗和食の日本人板前である。食べることが国民的関心事といわれているシンガポール人にとって、フードブロガーは若者世代の憧れの職業らしい。ハイエンドな雑誌にも寄稿している、著名な女性ブロガーが参加した。
 さて、文字通り鳴り物入りで、和太鼓の演奏でコンテストは幕を開けた。早々にシェフたちの真剣勝負ぶりが、そのぶつかり合うような空気から感じられた。審査員に供されるのは、一人前の分量である。日英バイリンガルのモデルのような司会者が、巧みな話術で、会場の雰囲気を盛り上げていく。さっそく一杯目後に、私もインタビューされた。日本で見慣れていた食べ物番組の評論家のように、形容詞をたくさん並べてのコメントはできない。
 
 気合い満点。審査直前、すべての参加シェフが集まって勝ちどきをあげる


気合い満点。審査直前、すべての参加シェフが集まって勝ちどきをあげる

完食など当然出来るはずもなく、2、3口ずつ試食して、素人の私はすでに3杯目で満腹感に襲われ、その後は、発砲水で流し込むような有様であった。これをテレビで優雅にコメントしてのける、プロたちはやっぱりさすが、なのである。
 さて、結果は私も最高得点をつけた、豚骨味で薄めのチャーシューがどんぶりの縁を飾っていたお店が、今回の優勝者となった。新参者の彼はその後、早速に出店を決めたらしい。どこか別の、人気がなくて閉店したスロットに入ると聞いた。まさに下克上の世界だ。厳しい自由競争で勝ち抜いて行けなければ、結局は舌の肥えたシンガポール人を満足させられないのである。あのコンテストは、まさに生死をかけた戦いであったのだ。たかがラーメン、されどラーメンである。

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