知財立国が危ない

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 近年、産業のグローバル化が進み、アジアの新興国が台頭してきた。なかでも中国の存在は大きく、国際社会の産業や政治の構造を変えようとしている。
 戦後急速に経済復興を果たした日本は、製造技術で急速な進歩を遂げ、対米貿易の巨額な黒字は貿易摩擦を引き起こした。アメリカの製造業は大打撃を受け、メキシコや東南アジアの低賃金を求めて工場を移し、産業の空洞化が進んだ。
 この事態に「強いアメリカの復活」を掲げて登場したのがレーガン大統領である。「産業競争力委員会」の提言に従い、政府はプロパテント政策に切り替えて新技術の創造や実用化、知的財産権の保護を強力に進めた。アメリカは見事に復活を遂げ、従来に優る繁栄を謳歌した。その流れを加速したのがコンピュータの発達とインターネットの出現である。
 コンピュータの進化は、各種の研究や技術開発のスピードを飛躍的に上げていった。製造技術もモジュール化により、高度な知識やノウハウがなくても均質な製品を生み出せるようになった。その結果、生産場所は世界に広がり市場は驚くほど拡大して、グローバル化が進んだのである。
 これらの変化に諸国は国を挙げての知財強化戦略を展開し、知財の価値はうなぎ上り、世界の大企業は知財などの無形資産が企業資産の50%を超えるまでになった。どのように優秀な技術を開発しようと、知的財産権で武装し知財を戦略的に組み入れた経営戦略を構築しないと国際競争に勝ち残れないのである。日本は小泉政権時代に知財立国を掲げて改革を進めたが、保守的な判決が続き世界の潮流に取り残され中国や韓国に遅れをとろうとしている。
 このたび「知財立国が危ない」が出版された。このような世界の流れに危機感を抱き、特許庁長官時代には日本にも知財高裁を創設した荒井寿光氏と、読売新聞の論説委員を長年務め警鐘を鳴らし続けた馬場錬成氏の対談形式による啓蒙書である。本書では日本の問題点を指摘するとともに改革案を示して読みやすい。この本が多くの人たちの行動を促し、近い将来に国家戦略として再び知恵で飯の食える国・日本が実現することを期待したい。【若尾龍彦】

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