ビジネスワイド:冷食ナンバーワンを目指して

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味の素社の伊藤社長(前列右から3人目)と倉田会長(前列左から4人目)と同社社員たち(味の素社提供)

味の素社の伊藤社長(前列右から3人目)と倉田会長(前列左から4人目)と同社社員たち(味の素社提供)

 味の素ウィンザー会長
倉田晴夫さん

 1917年に米国に進出し、海外事業にも積極的に取り組む味の素社。その米国の連結子会社で北米冷凍食品事業を行う味の素ノースアメリカが昨秋、冷凍食品の製造・販売大手ウィンザー・クオリティ・ホールディングスを買収した。社名も「味の素ウィンザー」と生まれ変わった同社会長の倉田晴夫氏に、北米戦略や今後の事業展開など話を聞いた。【取材=吉田純子】

米国進出は約1世紀前
「おいしい」は世界共通

冷凍食品で米国ナンバーワンを目指す「味の素ウィンザー」社の倉田会長

冷凍食品で米国ナンバーワンを目指す「味の素ウィンザー」社の倉田会長

 味の素社の米国進出はおよそ1世紀前までさかのぼる。調味料「味の素」を日系人や日系レストランに売リ始めたのが最初だった。その後、第二次世界大戦の開戦で一時撤退。終戦後に再び進出し、調味料ビジネスを展開した。
 冷凍食品事業で初めて米国に工場を所有したのが2000年。それまで餃子やシュウマイなどの商品は他社に生産を委託していたが、オレゴン州ポートランドにあった冷凍食品の工場を買収し自社生産を開始した。
 「日本で1番おいしいものは世界でも売れる」。「おいしい」と思う感覚は世界共通。ただ日本の味をそのまま持ってきて売るのではなく、米国人の味覚にあった味に変え、パッケージも工夫する必要があると倉田会長は話す。味はフュージョン系にアレンジし、餃子は肉の比率を多くするなど工夫している。
 調理を簡単にすることも重要な要素のひとつ。06年に発売開始した同社の冷凍餃子は、調理に必要な水と油がすでに氷となって入っており、フライパンの上に置き中火で10分焼くだけでパリパリの餃子ができ、普段焼き餃子を作らない米国人でも失敗しない調理方法を開発した。
 全米の会員制量販店「COSTCO」で販売している「焼きそば」は、米国人でもフォークで食べやすいよう麺の長さを短くし、味は日本で一般的なソース味ではなく、醤油ベースの味付けに変えた。
 「米国で勝負するなら『アメリカ人の食べ物』として製造しなければなりません。販売力ではないのです。米国人の嗜好に合った商品を提供すれば必ず受け入れられます」と倉田会長は力を込める。


米国の健康志向にも対応
レストランクオリティーを追求

 塩や砂糖、油の使用を減らす取り組みのほか、「オールナチュラル」のコンセプトのもと、消費者の健康を意識した商品開発を行っている。同社の焼きそばはオールナチュラル、ベジタリアンで販売している。
 「米国はフェアな国。美味しいものを提案すれば、どんな小さな会社でも相手にしてくれます」と話す倉田会長。ただ味で消費者を驚かす必要がある。
 日本食のイメージは米国人にはヘルシーに映る。商品のパッケージにも「ジャパン」を全面に出すなど工夫を施した。
 20、30代のミレニアム世代の若者は子どものころから健康志向が強く、冷凍食品から遠のきつつある。一方で40、50、60代は冷凍食品を買う傾向があるという。「売り上げが伸びている商品はおいしく、レストランクオリティーの商品。そこに狙いをつけています」
 同社は05年から毎年10%ずつ売り上げを伸ばし、現在の売り上げはおよそ1億2千万ドル。「持続的に売り上げを伸ばすためには、『おいしい』を追求することが必要。たとえ冷凍であってもおいしければお客さまに選んでいただけます」と倉田会長は語る。
 同社が米国で展開している商品の材料は99%が米国産。一部調味料で他国産を使用している。発売以来、同社の人気商品となっている「フライドライス(炒飯)」は、米を調理する機械を日本から運び製造。米国で日本と同じ米の質の商品を作れる製造設備を持つのは同社だけだという。「Made in Japan」はここでも大活躍だ。

ウィンザー社を買収
販売規模の拡大図る

4月に日本から視察に訪れた味の素社の伊藤雅俊社長(右端)とともにCOSTCOを視察する倉田会長(味の素社提供)

4月に日本から視察に訪れた味の素社の伊藤雅俊社長(右端)とともにCOSTCOを視察する倉田会長(味の素社提供)

 昨年、米冷凍食品大手のウィンザー社を同社買収価格最高額の800億ドル(約840億円)で買収した。社名も「味の素ウィンザー」と生まれ変わり、米国ナンバーワンの冷凍食品会社を目指す。ウィンザー社はアジア系商品では「タイペイ」、餃子ブランドの「リンリン」、メキシカンでは「ホセオレ」などの主力ブランドがあり、こうした商品には味の素ブランドの要素は加えず、そのままウィンザーブランドとして販売している。
 ウィンザー社の魅力は、何といってもその販売規模。全米のスーパーマーケットに商品が並ぶ。
 またアジア、イタリア、メキシコ系のレストランチェーンのシェアナンバーワンでもある。イタリア料理チェーン店「オリーブガーデン」のパスタの商品開発だけでなく、ファストフード店「ジャック・イン・ザ・ボックス」や「タコベル」、「アップルビー」などもウィンザー社の取引先だ。
 同社は全米のCOSTCOやウォルマートなど3千軒のスーパー、日本食や中華などアジア系レストラン1万軒に冷凍餃子や調味料などの取引があったのに対し、ウィンザー社は昨年の味の素社の発表によると、小売り8万店舗、レストラン12万店舗と取引する営業基盤がある。買収により、これまで同社になかった大手レストランチェーンとの取引も可能になった。
 工場もこれまではポートランドに1カ所所有するのみだったが、ウィンザー社が所有する7つの工場が加わり、現在計8つの工場を所有。製造から販売までの強い機能が手に入った。「ここまでの規模を1から作り上げていくには膨大な時間と労力がかかります。マーケティングリサーチの結果、今回の買収はそのための時間をお金で買ったようなものなのです」

製造、開発を現地化
7年で赤字から黒字へ

 「07年までは赤字でした。黒にするのに7年の歳月を要しました」。この7年の間に米国人に合う商品の開発が行われた。当初、開発責任者は日本人だったが05年から開発メンバーを米国人に代え現地化を図った。「日本人が開発していては発想が限られてしまうのです。米国人に開発させなければ米国人に受け入れられる商品は作れません」
 倉田会長は85〜87年までテキサスの大学院に留学した。89〜94年はロサンゼルスで外部の工場に生産を委託していた冷凍食品の販売責任者をしていた。「いつか米国に工場を持ちたい」。その夢を胸にいったんは日本に戻り、94〜2005年までは本社冷凍食品部門の経営企画部長を務め、海外の工場を買収する業務に携わった。
 2000年にポートランドの工場を買収。かねてからの夢が実現し、05年にポートランドに移り、現在に至る。「米国に工場を持ち販売したら絶対に売れると確信していました。売り上げを120億円まで伸ばし、会社として次のステージを目指した時、さらに強い基盤が必要だと判断し、ウィンザー社買収に着手したのです」
 「買収の2年ほど前から『買うならウィンザーしかない』と前任者(現本社冷凍食品部門社長)とも話していました」。LAに最初にやってきたのが26年前。冷凍食品事業に関わり続け、やっとここまでたどり着いた。
 今年から冷凍ラーメン事業が始まる。ポートランドに冷凍ラーメン製造会社を即席麺ブランド「マルちゃん」で知られる日本の食品会社「東洋水産」と設立。今年6月から工場建設が始まる。冷凍ラーメンを全米で発売するのは、日本のメーカーでは初めて。
 冷凍食品事業は30年ほど前に餃子とシュウマイからはじめ、次にフライドライス(炒飯)などの米製品。「『米の次は何か』と考えたら麺に至りました。米国人にとって麺は米よりも浸透しています。米国人はチキンヌードルスープを食べ、今ではカップラーメンも食べます。米国人にスープと麺に対する抵抗はありません。そこに狙いをつけたのです」
 さらにおいしい麺とスープ、トッピングを提案し、家でレストランクオリティーのラーメンが食べられるようになれば主力商品にもなりうると判断。「東洋水産はどんな麺でも作れる技術を持っています。また幸いにも近年のラーメンブームも重なり、『これはアクセルを踏むしかない』と決断しました」。同社の米国での挑戦は今まさに始まったばかり。

商品についての打ち合わせをする倉田会長(左)と同社のマニュエル・マルティネス上級副社長

商品についての打ち合わせをする倉田会長(左)と同社のマニュエル・マルティネス上級副社長

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