「野球の神様」といえば、言わずと知れたベーブ・ルース。その伝説の強打者の安打数を超えたのが、われらの英雄イチローだ。おめでとう。
 海を渡っても、卓越したバットコントロールを駆使し、数々の記録を打ち立ててきた。このたびの通算2874安打はイチローにとっては、単なる通過点に過ぎないかもしれない。
 ただ、野球ファンはもとより、米国民の誰もが知る偉大なルースの安打記録を破っただけに、メディアの注目は高かった。
 野茂がドジャースに再加入し投げていた頃の取材で、私は相手チームの元選手トニー・クラークと話す機会に恵まれた。シーズンを通し好調を保ち、30本塁打を放って復活を遂げたいいシーズンだったが、その前年はヤンキースでレギュラーを取れずにいた。代打としての起用が主で、ベンチで過ごす時間が多く、耐える姿に酷な思いがした。
 クラークによると、欠場が続くと理想のバッティングフォームの維持ができずまた、数試合空けてからの打席では、ハイスピードボールに対応することが難しいという。練習して試合に万全の状態で備えたとしても出番がないことが多々あり「辛かった」と振り返った。試合勘を取り戻すには、1打席では当然足りず「代打は、とてもタフなジョブ」と吐露した。
 イチローは今、控え時代のクラークと同じ厳しい状況にいる。故障者の交代要員に徹し「それが僕の役割だから」と一切、不平を言うことはない。
 「天才」と称されるが、本人いわく「努力の天才」。出番がある、なし、にかかわらず、人一倍練習し続ける背中を見せつけられたのが、昨年までの同僚の黒田だった。黙々とバットを振る姿に感服したという。
 イチローの次の金字塔は、もちろん3000本安打だ。出場機会が限られ微妙だが、日本選手は故障者が続出し受難の年だけに、今季中の達成に期待したい。ホームランで決めて、ベンチからカーテンコールに応えるのもいいが、イチローといえば、やはり単打だろう。一塁ベース上でヘルメットを脱いで、観客席のスタンディングオベーションに応える雄姿を拝みたい。【永田 潤】

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