アンジェラック:最高なものを新鮮なうちに

0

日米蘭での経験生かし、独創的で繊細なデザイン

口コミでビジネス拡大を続けるトーレンスの生花店「アンジェラック」のオーナー中村猛さんと幸子夫人

口コミでビジネス拡大を続けるトーレンスの生花店「アンジェラック」のオーナー中村猛さんと幸子夫人

 独創的で繊細なデザインと新鮮な生花が高く評価され、口コミでビジネス拡大を続けるトーレンスのカスタムデザイン生花店「アンジェラック」。日本、アメリカ、オランダと数々の修業を経て、笑顔の絶えない妻幸子さんとアメリカで起業したオーナーの中村猛さん。多種多様な顧客に愛されるアンジェラックになるまでの数々の試練と学びについて、話を聞いた。
【取材=中村良子】

 神奈川県鎌倉市にある生花店の次男として生まれた。意識する前から花の美しさに魅了され、気付いたころにはすでにとりこになっていた。
 忘れられない思い出がある。小学校3年生くらいのころ、夏休み恒例のラジオ体操に出かける途中、近所に咲く真っ青な朝顔が目に留まった。大きく開いた花びらの上には朝露がぽつぽつとついており、その何とも言えない鮮やかな色に、体が動かなくなるほど吸い寄せられた。今でも「あの朝顔をもう一度見てみたい」と思うほど、忘れられない美しさだった。
 高校卒業後は、東京の「日本フロリスト養成専門学校」に通い、当時まだ新しかったフラワーアレンジメントを習得した。学校に通いながら、総理大臣賞を2回受賞した池田勇男氏に師事。当時、丸い形のフラワーアレンジメントしか流通していない中、池田氏は花の域から一歩外に出た斬新な考えの持ち主で、そのデザインは現在の中村さんにも生きている。
 
アメリカを経てオランダへ
各国の違い学び、視野広げる

 

オランダでの研修仲間と中村さん=88年、ベルケル・エン・ローデンレイス市

オランダでの研修仲間と中村さん=88年、ベルケル・エン・ローデンレイス市

 日本で生花店を開業する下準備として、シカゴの生花店で3カ月修業させてもらうことになった。当時、逗子池子に米軍住宅の建設計画があり、英語ができたほうがいいとの考えからだった。
 しかし、アメリカに足を踏み入れてみると、日本では目にすることのない花や自然があり、また日米における生花店の考え方や経営の違い、さらに斬新で自由なフラワーデザインに圧倒された。3カ月では足りず、いったん日本へ帰国後、再度英語の勉強も兼ね、カリフォルニア州立大学ノースリッジ校のESLに入学した。
 在学中は春休みを利用し、当時、花の生産量世界一を誇り、フラワーデザインでも最先端を行っていたオランダで研修に参加した。現地では、過去2回世界チャンピオンに輝いたフラワーデザイナー、ピット・バン・デルベルグ氏に師事し、日本さらにはアメリカとの違いを習得した。
 3カ国で学んだ経験から、花やデザインが与える印象にはそれぞれの人種、宗教、文化、風土が大きく影響していることに気付かされた。日本で高齢者に花を贈る場合は控えめな色が好まれるが、アメリカでは強い色彩が好まれる。またオランダでは、白や薄い色が好まれることなども自身の体験から学んだ。
 「ひとつのものを作って、万人に受けようというのは乱暴」。それぞれ個人に合わせてその人にとっての一番を提供することを心がけ、それが現在のカスタムメイドにつながっている。
 
「親に認めてもらいたい」
長男主義にささやかな反抗

 
メルローズの店舗前で従業員らと写真に納まる中村さん夫妻(左端)=90年12月

メルローズの店舗前で従業員らと写真に納まる中村さん夫妻(左端)=90年12月

 CSUNを卒業後、1990年、メルローズに自分の店をオープンさせた。斬新なデザインが広く受け入れられるアメリカで、自身が培った創造性を試してみたかった。
 しかし、時を同じくして湾岸戦争が勃発し、世間は不景気まっただ中。オープン当初から店は苦しい状況だった。一方、日本はバブル最盛期。生花業界は大盛況で、仲間から、「こんな時代になぜ、わざわざ不景気なアメリカで店をオープンしたのか」とけなされた。
 自分の限界に挑戦したいという強い気持ちがあった。「長男至上主義の父親に、認めてもらいたかったのだと思う」。生まれた時から鎌倉の店を継ぐことが決まっていた兄がうらやましかった。だから人一倍努力し、賞をたくさん得た。しかし、それら賞状が実家の壁に飾られることは、一度もなかった。
 「自分がどんなに頑張っても、たとえ実力があっても、兄貴を超えて父親が次男である自分を認めてくれることはなかった」。父親へのささやかな反発が、「土俵の違うアメリカで開業し、勝負したい」だったのだ。
 「兄貴を超えたいというよりも、兄貴に負けたくなかった」。10年前に他界した父親が、当時の中村さんの気持ちに気付いていたかは、分からない。「今となっては、他に選択肢を与えられず、守らなければならないものがある兄貴の辛い気持ちも理解できる。自分は自由ににやらせてもらえただけ感謝している」
 
注文受けてから仕入れ
無駄省き低価格
多種多様な客に対応

 
 97年、メルローズの店を売却した。購入額の1/3だったが、心身ともに疲れ果てていた。95年に誕生した長男は自閉症と診断され、子育てとセラピー、さらに傾きかけたビジネスを夫婦で両立させるには無理があった。
 「正式な敗北宣言だった」というように、これを機にふっきれた。「兄貴と比較して親に認めてもらうのではなく、自分のやりたいようにやろう」。心機一転、場所をトーレンスに移し、誕生した次男と家族4人で再出発した。失敗をバネに、お客の立場に立ったビジネスを考えた。結果、注文をもらった後に花を仕入れ、在庫を抱える無駄をなくし、新鮮な状態で届けることができるシステムを取り入れた。破棄する花がなくなることから、商品の値段も低く押さえられる。
 従来の店舗を持たず、倉庫で営業するため、お客が店舗に並ぶ商品を選ぶ注文法ができない。その分、電話で受ける注文に細心の注意を払う。過去の経験から、人種や宗教によって避けなければならない色や花の種類があることも学んだ。そのため、お客とのコミュニケーションには十分な時間をかけ、求められているものを提供できるよう心がけている。
「説明できないデザインを提供したことは一度もない」と話す中村さん

「説明できないデザインを提供したことは一度もない」と話す中村さん

 日本、アメリカ、オランダで培ったそれぞれのデザインと、生まれ持った創造性を生かし、斬新かつ繊細なデザインを提供し続ける中村さん。「説明できないデザインを提供したことは一度もない」。その自信から、「気に入らなければ、代金はいただきません」と伝えている。
 日本人として、正しい日本のアレンジメントや花を通じた日本文化普及にも努める。また、商店などの開店時にお祝いとして贈るスタンドを初めてアメリカに紹介したのも中村さんだ。新しいものをアートとして受け入れる許容範囲が広いアメリカ人にはすぐに受け入れられ、店の開店祝いだけでなく、「家を購入したクライアントに」と、不動産のエージェントからの注文も受けるようになった。
 「自分が作ったものが孫の代まで残る大工などと違い、私の作品は一週間しか持たない。はかないからこそ、自信のある、相手に喜ばれる作品しか作らない。本当に気に入ってもらえた時は、逆に料金はいらないと思ってしまう。利益を考えて花を作ったことは、一度もない」
 アンジェラックの詳細はウェブサイトで―
 www.angeluck.com
問い合わせは電話、310・539・3838またはメールで―
[email protected]

Share.

Leave A Reply