見識を示す時期

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 15年ぶりに日本からロサンゼルスにやって来た知人。「ロスはもう夏だと思い、Tシャツで来たら、なんでこんなに寒いんだ」と驚く。
 確かに5月の気候は、例年と比べて異常ともいえるほど肌寒い日が続いた。気温65度との説明に、「なんだ、まだアメリカじゃカ氏を使っているのか」と不満顔。車を運転していても、時速65マイルの制限速度サインに「これじゃ、外国から来る人には理解しずらいし、不親切だ」と、容赦ない。
 長さはメートル、重さはキログラム、体積はリットルを基本単位とするメートル法を採用していない先進国はアメリカだけ。温度にしても、沸点を100度、氷点を0度とするほうが理解しやすいはずだ。また、人間の平熱は36・5度と学んだ人が医者から「熱が99度あります」と言われて、「うわぁ~、死んじゃう!」と仰天したという笑い話のような実話もある。
 使い慣れた度量衡の変更は並大抵なことではない。世論調査でも約8割の人がメートル法採用に反対している。
 独立宣言の起草者で、後に第3代大統領になったトーマス・ジェファソンは1790年、フランスの十進法を採用しようと主張したが議会の反対にあって断念。それ以来、イギリスのヤード・ポンド法が公式に採用されてきた。
 それでもメートル法の利便性は捨てがたく、行政レベルではメートル法への移行が図られ、すべての高速道路の交通標識を92年までにメートル法表記に変え、守れない州には道路補修費などの連邦補助金を配布しないと1988年に定めたのも、その一つ。
 しかし、国民の反対意見が多いことを理由に、ブッシュ政権は法施行を96年9月まで延期し、クリントン政権になってから無期限延期を決めている。その結果は周知の通りで、一部でマイルとメートルの両方が併記されているところもあるが、全体的にはマイル表記のまま。
 あくまでもヤード・ポンド制を維持していくのも一つの選択肢かもしれない。だとしても、産業機器や工具などの多くはメートル法に基づいて作られているから、いずれ国際貿易をはじめとして多方面で不利な状況に追いやられることも懸念される。
 外国から来た人の愚痴を聞くまでもなく、アメリカは我を張らず、国際社会のリーダーとしての見識を示す時期に来ていると思う。【石原 嵩】

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