涙と手紙と

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 日本の私に電話をかけて来た娘は、涙声だった。
 「どうしても抗議したくて、手紙を書き始めたの。こんな人がいるかと思うと本当に悲しくて…」
 日本の漫画家がフェイスブックに掲載した「そうだ 難民しよう」とのタイトルのイラストがBBCニュースによって紹介されたという。それは、慈善団体「セーブ・ザ・チルドレン」のポスターの6歳のシリア難民少女の写真をもとにしつつ、難民の実体は他人の金でぜいたくしようとする偽装難民だと思わせるものになっていた。ショックを受けた娘は、手紙を書き始めた。
 「夫の生まれ育った美しいシリアは今、内戦でメチャクチャです。あなたは見ましたか、浜辺に横たわった2歳の子の遺体を。その子の名はアイラン。ISに占領された村から一家で逃れようとして、地中海で溺れて死んだ子です。私はその写真を見て泣きました。私の息子が履くようなアイランの小さな茶色い革靴は、きっと、これからたくさん歩くのだから丈夫な物をとの思いをこめて母親が履かせたことでしょう」
 「私はマンガが大好きです。マンガがフィクションであり、日常生活とファンタジーを組み合わせるアートであることも承知です。しかし、あなたの描いたキャラクターの、ぜいたくな生活をするためにわざと難民するというのは、あまりに事実とかけ離れています…」
 娘の胸の痛みは、アメリカにも及ぶ。
 娘は幼い息子に、父母の文化を大切にと願い、日本とイスラムの名をつけた。「お母さん、ドナルド・トランプはイスラムの人間を登録させよと言い、難民の受け入れについても31州の知事が反対を表明しているの」。「イスラム名を持つことでこの子たちが迫害される時代に向かっているのかと思うのは、辛い」
 かつて、過去を変えることは出来なくとも過去から学ぶことは出来ると宣言して日系人立ち退きに謝罪したアメリカの民主主義を、私は信じたい。が、排他主義を標榜(ひょうぼう)する政治家が支持者を増やし、日本では難民風刺報道で名を売った作品がアマゾン予約リストの上位に入るという現状には、不穏なものを感じないではいられない。【楠瀬明子】

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