ロスの桜、ジャカランダ

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 日本は桜の季節。この時期、桜見物に日本に帰国する人も多く、うらやましい。桜前線なんて、日本人の言語感覚の繊細さがよく表れ、聞くたびに感心する。
 しかし、ロサンゼルスにも桜がある。そう、あのジャカランダの紫の花だ。今真っ盛り。空一帯を覆い、紫の浮雲のように見える。37年前に初めて当地を訪れ、フリーウエーの沿道のあちこちに見えるこの紫の木の美しさに感動した。まるで日本の桜そっくりだ。色が違うだけ。今はジャカランダの並木道に桜並木を重ね、カリフォルニアと日本の春を同時に楽しむ。
 親族家族がイギリスに留学した。便りでは英国人の冷たさ、住宅の古さ汚さなど不平不満ばかりだったが、最近大逆転した。春になり、あちこちの公園の草むらからクロッカスの花がいっせいに咲き始めたそうだ。冷土から頭を持ち上げ吹き出した美しさに魅せられ、英国が好きになり始めたという。異国での寒い冬を乗り越え、春を迎えた時、異なった環境に慣れた安心感が生まれたのだろう。それを春一番のクロッカスが教えてくれたのだ。
 南加は温暖な気候に恵まれ、住宅街の庭にはありとあらゆる花が咲き始めた。ラスベガス、パームスプリングスと砂漠に12年間住んだ時は、針の棘がついたサボテン系の花しか咲かず、ロスの柔らかな花がうらやましくて仕方がなかった。今はそれに囲まれ、それが当然のことになった。そして時々その恵みを忘れる。若さ、健康、安定した日常生活は失って初めてその大切さに気付くのに似ているかもしれない。
 もうすぐ野山はポピーで覆われ、オレンジ色になる。デイジーが覆って黄色い山ができる。ルーピンは紫の山を作る。自然が作る無償の芸術が見られる季節だ。その壮大な風景はこの世のものとも思えず、息を呑む。アメリカに住む醍醐味の一つを味わえる。
 今も昔も生計を立てるのは容易ではない。世界はデジタル化し急速に変化している。しかし、自然はいつの世も変わらず、生のリズムを刻む。ジャカランダの花は今年も変わらぬ美しさだ。【萩野千鶴子】

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