桃井かおり:米国で生きる日本人女性への思い【後編】

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愛犬のおそでちゃんと一緒に散歩をするのがLAでの過ごし方と話す桃井かおり(写真=吉田純子)

愛犬のおそでちゃんと一緒に散歩をするのがLAでの過ごし方と話す桃井かおり(写真=吉田純子)


 ロサンゼルスを拠点に女優、そして監督としても活動する桃井かおり。世界各国の映画人と仕事をする中、今年2月に行われたベルリン国際映画祭では自身監督2作目で主演・脚本も務めた映画「火Hee」がフォーラム部門の上映作に選ばれた。今世界を舞台に活躍する桃井に、撮影での裏話や同映画に託した米国で力強く生きる日本人女性への思いなど話を聞く後編。【取材=吉田純子】

 原作は芥川賞受賞作家の中村文則の「銃」に収録されている短編小説「火」。青く広がるアメリカの陽気な天気とは対照的に、孤独と対峙するひとりの日本人娼婦の物語だ。「主演と監督両方を私にやらせたいというオファーを頂きました。本作の制作を手掛けた奥山和由さんが私の前監督作『無花果の顔』を見て、私に出演と監督を務めさせてはどうかと思いついてくれたようです」
 物語はある日アメリカでクリニックに勤める精神科医の真田が、ひとりの女性とエレベーターで遭遇するところから始まる。

ベルリン国際映画祭で「火Hee」上映後に行われた質疑応答での桃井かおり(右から2人目)(よしもとクリエイティブ・エージェンシー提供)

ベルリン国際映画祭で「火Hee」上映後に行われた質疑応答での桃井かおり(右から2人目)(よしもとクリエイティブ・エージェンシー提供)

 彼女の声が脳裏に響き渡り、真田は彼女とクリニックで問診している様子を妄想する。しかし彼女の話は、真田の想像を超える壮絶なものだった。
 幼い頃に家が火事になり両親を亡くし、学校ではイジメを受け、結婚相手からは浮気をされる。離婚してからは、アメリカで売春をしながら借金生活で暮らす日々。
 彼女の話を聞くうちに、次々に登場する男と自分を重ね合わせ、話に引き込まれていく真田。火は勝手に燃え広がり彼女はどうしても止められない。親だけでなく自分の娘まで焼き殺しているという彼女の話はエスカレートし、思いもよらない方向へと向かっていく。
 撮影日数はわずか10日間。予算が少なく飛行機代も出ないため日本から俳優も呼べない。そんな状況の中、桃井は自宅をロケ地にし、衣装も美術も自ら引き受けた。今回一番学習したのは予算を抑えることだったという。
 原作を読んだ時、コミュニケーションの話だと思ったと同時に、桃井はLAで暮らす日本人女性たちのたくましさも思い出したという。「米国で暮らし根付いた人たちは私の憧れでもあります。強さと優しさの両方を持ち合わせている。人を助けるほどの大きな優しさがないと米国では生き残れないと思うのです」
 主人公の女性はものすごく強く、優しい。でもその優しさを使い切れず、救いようのないほどまでに落ちこぼれ死んでいく。「でも誰も彼女に向かって強いエネルギーで興味を持ってあげなかった。最後はろうろうと自分のことを話し、記憶を蘇らせていく彼女。それを何も興味を持たずただ座って聞いている真田の姿が、私にとっては日本のように思えるのです」。海外で生きていくことの強さと優しさを兼ね備えているにもかかわらず、落ちこぼれてしまった人間の成れの果てを主人公に投影したと桃井はいう。
(よしもとクリエイティブ・エージェンシー提供)

(よしもとクリエイティブ・エージェンシー提供)

 「LAにいたからこそ、強い日本の女性を見ることができた。外国人として米国に来て住み着く強さ。誰かとつながって生きられなかったのかと思わせる女性を主人公にした残念なおとぎ話のようなストーリーが今の時代には合っているような気がしたのです」
 一番見てもらいたいのはLAや英語圏で暮らす人。「共感するところがあると思う」と話す。
 監督として大切にしていることは「なぜこの映画を撮らなければならないのか」。どういう風に作ったかより「何を作らなければならないのか」。それを見つけることが映画作りにおいて重要なことだと力を込める。
 「意味ある映画を作り、映画を見て人生が変わったり再生される作品を作っていきたい。自分のヤバイところは全部映画館に捨てて、いい気持ちになって会場を後にしてほしいと思っています」

 桃井かおりが現在のLAでの生活について語った前編はこちらから
 

上映後の質疑応答で「火Hee」への思いを語った桃井かおり(よしもとクリエイティブ・エージェンシー提供)

上映後の質疑応答で「火Hee」への思いを語った桃井かおり(よしもとクリエイティブ・エージェンシー提供)

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