和食レストラン事情

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 今から25年以上も前のこと、日本からシカゴを訪れた和食レストラン関係のA氏が、
「まだまだ開発の余地はあるね。あと40店くらい寿司レストランができても大丈夫だ」
と話しているのを聞いたことがある。
 その時は「まさか…あと10店くらいなら」と思った。シカゴにそれだけの和食人口がいるとは思えなかったのだが、ここ10年ぐらいだろうか、雨後のたけのこのように寿司やてんぷらを食べさせるレストランが増えた。
 ところが、どのレストランもいわゆるフュージョンと呼ばれる目新しさを追ったデザイナー寿司が売りものだったり、中華料理&寿司、タイ料理&寿司、韓国料理&寿司といった看板が挙っている。
 寿司もてんぷらも立派に市民権を得て久しいが、巻き寿司にたっぷりと山葵(わさび)醤油をつけて食べる寿司通(?)をよく見かけるし、チリソースが山葵に取って代わることもある。
 寿司そのものも、山奥で誕生した馴れ寿司から世界進出を果たした今日まで、幾多の変遷を得て味も形も食材も変わりながら人々の味覚に応え、胃袋を満足させてきたのである。まさに需要に対して供給が応えている現象である。
 それほど和食がもてはやされているなかで、34年にわたり固定客を誇ってきたシカゴの寿司レストランが7月末で閉店する。
 自らカウンターに入って寿司を握り続け、手の込んだ前菜を作り、いつもはにかんだような笑顔で客を迎えていたオーナー・シェフのJさんが、「34年がんばったんだから、もうそろそろ引退させてもらってもいいでしょう」とニッコリした。
 私の独断と偏見だが、和食レストランと呼べる店がつぎつぎと閉店してしまう。私自身は食通でもないし舌が奢っているわけでもない。どちらかといえば、もっさりした家庭料理が好きだし、前述のアメリカ寿司に異議を唱えるつもりはないが、「さて、どこに行こうか」と考えるとき、やはり「自分の舌が覚えている和食」を供してくれるレストランを探してしまう。
 Jさん、長い間ごちそうさまでした。ありがとう。【川口加代子】

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