捨てろと言われても

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 米国在住を証明する必要があって、領事館に出向いた。
 今まで3度引越したが、在留届の住所変更は忘れず提出している。入国当初は仮住まいだったが、出来れば入国した年からの証明が必要だった。そこで取りあえず電話で「最初はいつ届けを出しているのか」尋ねてみた。今どきコンピューターでポンと出てくるものと思ったが、「それはご自分で証明することになります」との返事。住所宛ての郵便物、公共料金の支払い書などを持って来てくださいとのこと。その時一番に頭をよぎったのは、捨てなくてよかったーということ。
 引越の折、余程整理しようと思ったのが、公共料金の書類。誰に聞いても、そんなもの捨てちゃってるわよ! という。3枚綴りのもあり、17年分は大変な量である。それが役立つことになった! 1年目は間借りだったから電気代、ガス代の支払いはない。でも友達からの古い手紙が役立つことになった。
 こんなことがあるから、ますますものが捨てられない。思い切って捨てた後に必ず、ああーということが今までに何度かあるのだから。
 ひところ、断捨離という言葉がはやった。そして今は「こんまり」近藤麻理恵という人が、ものを捨てろ、捨てろと言っている。言うは易く、行うは難し。
 30代のころ、友達とコンサートに行った。その帰り道で、今買ったばかりのプログラムを、彼女が惜しげもなくゴミ箱に捨てたのには驚かされた。家に帰って余韻に浸りながら眺めたりもしないのだろうか? チケットの半券まで大事にファイルしている私には信じられない半面、物を持たない典型だと感心してしまった。
 彼女の新築マンションに招待された時、出来上がった料理を食べるその前に、今使ったガスレンジをせっせとクリーンしていたことを思い出す。熱いうちに拭いておくとすぐ汚れが取れるからと、それは、分かるのだけれど…。なかなか出来ることではない。こういう性格が羨ましい。
 テレビから聞こえてきたヒロシという人の言葉が笑えた。「シンプルライフに憧れてものを捨てたら、生活が出来なくなりました」【中島千絵】

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