一つ真珠、失す

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 苦難に立ち向かいながら自らの真価を認識させた日系人。そのエピソードを拾い集め、ハワイ・ヘラルド紙に寄稿し、その一部をまとめた「アメリカの真珠」の作者の訃報を目にした。彼女もまた、真珠だと思っていたので、一つ真珠を失った気持ちになった。
 彼女は、敬老施設の創設者である故和田勇氏の長女で宮本グレース美弥子さん。勇氏が亡き後、奥さまの正子さんの介護をしていたが、その正子さん亡き後にハワイに帰っていた。
 彼女が出会った日本人・日系人に興味を持って、ハワイに行ったことがあるが、観光地ハワイの賑やかさとは別の面を見聞できた。会った皆さんは、高齢で何の苦労もないような穏やかな顔だった。今に至るまでの苦労を笑い話にする、たくましさに感服したものだった。
 敬老創始者の和田勇氏の功績は計り知れないが、その彼の家族の苦労や苦悩を思うと、その労苦に報いる労りが家族に向けられただろうか? 和田氏の伝記、高杉良著「祖国へ、熱き心を」や「アメリカの真珠」の中に、正子さんの進言がなかったら敬老引退者ホームが建たなかったことや、勇氏が人助けを行っては、他人を自宅に招き入れ宿泊させる、その世話は全て正子さんの手に掛かったなどの記述がある。その実態は文字に表されたことの何十倍、何百倍の苦労があったと推察される。グレースさんの前述書に「母は普通には健康体だったが、ストレスがたまると胃潰瘍で胃が燃え上がるように痛んだという」という記述がある。家族にかかる負担はいかばかりだったろうかといたわしくなる。
 表に出て華々しく活躍している人のことは、多くの人の眼に映る。活躍が大きければ大きいほど、その支えの負担も大きいと思うが内助は見えない。その姿を見ていたから、強く思ったのだろう。「世間にまったく知られることなく、社会に多大な貢献をした日系人が存在することを知ってもらいたい」「日系人社会の基礎となっていた価値観や倫理観念が消滅しつつあることには、一抹の淋しさを感じずにいられない」と記しているように。
 正子さんの4回目の命日が近い。グレースさんの四十九日とほぼ近い日。【大石克子】

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