エメラルドからアマゾンへ、変わる大都市:シアトル(ワシントン)①

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Wander to Wonder 5

「モポップ」から走り出すモノレール

 シアトルは、私にとって思い入れのある街だ。大学時代、春休みを利用して、シアトル大学のESLプログラムに短期留学した。世界中の留学生と友達になり、寝る時間も惜しいほど、よく学びよく遊んだ。
 シアトルを訪れるのはそれ以来、20年以上ぶりになる。楽しかった青春の思い出が一気によみがえってきて、私はすっかりトシを取ったような、同時にまた若い頃に戻ったような、ワクワクした気持ちで、シアトル・タコマ国際空港に降り立った。

ロマンチックな港町

LAのウォルト・ディズニー・コンサートホールを設計したフランク・ゲイリー建築の「モポップ」外壁と、スペース・ニードル

 さっそく、シアトルのランドマークであるスペース・ニードルへ向かった。高さ184メートルの展望台にのぼると、目の前にエリオット湾が開ける。遠くには、雪を頂いたレーニア山、カスケード山脈もうっすらと望める。変わらない、懐かしい景色だ。
 私が留学先にシアトルを選んだのは、水のある街が好きだったから。湾と湖、山と緑に囲まれたシアトルは、「エメラルド・シティ」の愛称で知られ、当時のアメリカ人が憧れる「住みたい街」ランキングの上位に入っていた。神戸と姉妹都市であることも親しみを覚えた一因で、シアトル=ロマンチックな港町というイメージがあった。

シアトル名物「Beechers」のチーズカード。「Collections Cafe」のテーブルには、チフリが集めた時計のコレクションが展示されている

 私と同じ時期に、神戸からシアトル大学に来ている留学生がいた。彼女はなかなかプログラムになじめず、ホームシックにかかっていた。気晴らしになればと思って、彼女を誘ってスペース・ニードルへ行ったことがある。ここの展望台は、屋外に出ることができる。エリオット湾から吹きつける風にさらされてリフレッシュするかと思いきや、「あの向こうが太平洋、神戸なのね・・・」と、かえって彼女を涙目にさせてしまったっけ。
 神戸とシアトルは、姉妹都市になって今年でちょうど60周年だ。訪問団などの交流が、今も盛んに行なわれている。

全米一のクレーン数

 甘酸っぱい思い出に浸りつつ、私は、シアトルの街並みの変貌ぶりに驚いた。いくつかのランドマークや坂のある地形などは以前のままだが、高層ビルやコンドミニアムがずいぶん増えた。市の中心エリアが広がって、建物も密集している。
 「20年も来ていないなら、だいぶ変わったなという印象を受けるはずですよ。なにしろ最近のシアトルは、エメラルドならぬ『クレーン・シティ』と呼ばれているぐらいですからね」と地元の人が説明してくれた。
 シアトルは建設ラッシュの真っただ中で、現在、約60のクレーンが稼働している。その数は、2年連続で全米1位。2位は、やはりダウンタウンの再開発が急ピッチで進むロサンゼルスだが、クレーンの数は36だというから、比較してシアトルが飛び抜けていることがよくわかる。市中心部だけで、150以上の建設プロジェクトが進んでいるそうだ。

「アマゾニアン」が支配

 その原因は、「アマゾン」だ。Eコマースの巨人。その本社キャンパスがシアトルにできてから、すべてが変わった、という。

建設中のプロジェクトが多いことから、最近は「クレーン・シティ」と呼ばれるシアトル

 ダウンタウンのはずれ、駐車場だらけだったサウス・レイク・ユニオン地区の不動産を買い占めて、「アマゾン・タウン」という名のアーバン・キャンパスが生まれた。現在800万平方フィートの総面積は、拡大を続けている。シアトルの一等地にあるオフィススペースの19%をアマゾンが占拠している計算になり、これは地元のほかの企業40社を合わせた規模に相当するという調査を、最近のシアトル・タイムズ紙が報じている。これほどまでに一社が一都市を独占するのは、アメリカでも珍しい。
 都会の真ん中にオフィスをつくれば優秀な若い人材を集められる。創業者ジェフ・ベゾスのこの方針が当たった。国勢調査によれば、シアトルの人口は年間2万人以上のペースで増えており、1日平均57人が新しく移り住んでいる。
「アメリカで最も急速に成長している大都市」「ロンドンからも東京からもほぼ等距離(約7700キロ)にある世界の中心地」「テック・カンパニーの城下町」。そんなキャッチコピーがシアトルの形容詞として踊る。
 私が留学した頃のシアトルは、どこかグルーミーで、「グランジ・ロックの発祥地」が一番のウリであったことを考えると、アイデンティティーの大転換に思えるが・・・。
 テック・カンパニーの進出による家賃の高騰や渋滞などの問題はあれど、サンフランシスコやロサンゼルスで見られるような激しい反対運動や論争は、シアトルでは起きていないと聞いた。比較的、歴史が若い都市で、大自然に囲まれた環境だから、人々はうまくバランスを保ちながら新しく活気に満ちたシアトルを楽しめているのかもしれない。

地元出身アーティスト、チフリの作品

 シアトル大学は、ダウンタウンのはずれ、坂をのぼりきった丘の上にある。記憶を手繰りながら歩いて行くと、懐かしい時計塔と大学名の看板があった!しかし、感動で涙ぐんだのはそこまでで、それ以外はどこをどう歩いてもピンとこない。正門も、ライブラリーもカフェテリアもドミトリーも、面影が完全に消えている。
 本当に私はここにいたんだろうか、まさか別の大学だったりして、と自信がなくなった。私の記憶が衰えたのか、それともキャンパスの大規模な改装があったのか。誰かに聞きたくても、今いる学生が20年以上も前のことを知っているわけがない。私はキツネにつままれたような気持ちで、坂をくだった。
 懐かしい場所へしばらくぶりに旅をするとき、何が変わり何が変わらないのかをはっきり掴むのは難しい。一番変わってしまったのは、あるいは何の進歩もないのは、自分自身なのかもしれないから。シアトル②に続く
(文・写真=佐藤美玲)

 

 


 
Space Needle
400 Broad Street, Seattle, WA
www.SpaceNeedle.com
1962年の万博のために建設された「スペース・ニードル」は、シアトルの街のシンボルとして各種ロゴなどにも使われている。展望台からは、360度の大景観を楽しめる。ギフトショップも充実している。
 
 
 
 
 
 
Chihuly Garden and Glass
305 Harrison Street, Seattle, WA
www.ChihulyGardenAndGlass.com
カラフルなガラスの彫刻で世界的に有名なアーティスト、デイル・チフリの美術館。シアトルの南、タコマで生まれたチフリの足跡をたどり、幅広い作品を網羅している。スペース・ニードルの足元にあるため、

チフリのコレクションが展示された「Collections Cafe」の店内

チフリの作品とシアトルのランドマークとの「ツーショット」が撮影できることで人気がある。屋外の植物園では、草木とガラスの競演が見もの。チフリが影響を受けたアメリカ北西部(パシフィック・ノースウェスト)の先住民の文化へのオマージュや、日本の生け花からインスピレーションを得た作品も展示されており、ともに印象深い。併設のレストラン「Collections Cafe」は、チフリがハマって集めたユニークなコレクションが店内を飾る。バーガーやサラダなどのメニューは、カジュアルながらシアトルらしい洗練された味つけ。ワシントン州とオレゴン州のワインやビールも飲める。
 
 
 
Museum of Pop Culture (MoPOP)
325 5th Avenue N, Seattle, WA
http://www.MoPOP.org

シアトル出身のジミ・ヘンドリックスに関する展示

「モポップ」の愛称で親しまれている、ポップカルチャーをテーマにした珍しいミュージアム。シアトルにゆかりのあるミュージシャン、ジミ・ヘンドリックスやニルヴァーナを特集するほか、映画やドラマ、ファッションに関するユニークな展示が多い。応援する声の大きさがすごいことで有名な、NFL(プロフットボール)「シアトル・シーホークス」のファンに捧げる展示コーナーも人気がある。建物をデザインしたのは、建築家のフランク・ゲイリーだ。クラッシュしたギターを模した外観で、太陽の当たり具合によって色が微妙に変わる。
 
 
 
Crowne Plaza Hotel Seattle
1113 6th Avenue, Seattle, WA
www.CPHotelSeattle.com
ダウンタウンの中心部にあり、日本からのツアー客もよく泊まるホテル。観光名所のスペース・ニードルや、パイク・プレイス・マーケットなどへのアクセスも便利。
 
 
 

 


 
 
 
シアトルの観光情報はここで!
www.VisitSeattle.org
 
 
 
 
 
 
 
 
 
Special thanks to Visit Seattle, Connect Worldwide Japan, コーディネイター松田京子
 
 
 
佐藤美玲(Mirei Sato)
ジャーナリスト。ロサンゼルス在住。東京生まれ。朝日新聞記者を経て、渡米。UCLA大学院アメリカ黒人研究学部卒業・修士号。UC Berkeley博士課程中退。日系雑誌の編集者を務め、フリー転身。旅を通して、歴史と文化、ランドスケープとアイデンティティーを探る。
[email protected]

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