麻薬性の強い鎮痛剤の中毒になり一年程服用を続けていた女性が死亡して、家族が処方箋を出し続けた医師を相手に訴訟を起こした。
 アルコール依存症や麻薬中毒から抜けられない人は意志が弱いのだろう、などと昔は簡単に考えていた。
 芸能人やスポーツ選手、あの人がと驚く有名人が麻薬やアルコールの中毒に侵されてあたら才能も命までも失うケースは多々あるが、身近に中毒症で苦しむ人がいないと、どこか対岸の火事を見るような気持ちで深く考えることはない。
 私事で恐縮だが、去る2月の終りに膝の関節の手術をした。10年以上も痛みを我慢し続け、マッサージ、鍼治療、民間療法、フィジカル・セラピーといろいろ試してみたが、最後は人口関節を選んで、今その選択は正しかったと思っている。
 経験が豊かで、腕の良い医師に出会ったことも幸せだったが、手術後は周りからも脅かされて回復期の「痛み」を覚悟していた。リハビリ・センターに3週間入所、必要に応じて鎮痛剤を処方されながら、一日3回のセラピーを受け、一人で生活できる状態にまで回復した。
 強い鎮痛剤も最初の一日4錠から3錠、帰宅してからは2錠と意識して減らしたが、最後の1錠がなかなかやめられないことに気が付いた。
 「たった1錠だもの、大丈夫、痛みを我慢するのも良くないし…」と言い訳しながら。
 戻ってきた痛みが服用後しばらくすると潮が引くように消えてゆく時の開放感、これが病みつきになる要因らしい、と思った途端、意志が弱いだけだと思っていた中毒患者と自分の間の距離が無くなった。
 術後8週間、セラピストに、「もうそろそろやめなさい。ドクターと相談して弱くても中毒性の無い鎮痛剤に替えて筋肉を鍛える努力をしましょう」と勧められ、そのひと言で最後の1錠が私のキャビネットから消えたが、何時痛みが戻ってくるのだろうと不安な気持ちで過ごした次の24時間の長かったこと。
 こう考えてみると、適当な時期に、信頼できる家族や友人、専門家のひと言が患者を依存症から救う大きな力になるような気がする。【川口加代子】

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