一つのミツバチの群れには一匹の女王蜂と雌の働き蜂、生殖を担当する雄蜂の3種類が共存する。雄蜂には身を守る剣がなく、蜜や花粉を運ぶこともしない。女王蜂との交尾飛行の末、受精に成功すると死に至る。交尾できなかった者は巣へ戻り、繁殖の時期が過ぎると巣外へ追い出される。こうした特徴から英語では雄蜂「drone」を「怠け者」や「いそうろう」といった意味で使う。
 一方、すべての雌蜂は働き蜂となる。巣作り、女王の世話、食料の確保、女王の産んだ幼虫の世話など、その名のとおり働きづめだ。雌蜂の中で「ロイヤルゼリー」という完全栄養食だけを与えられて育った一匹が女王蜂となる。女王の仕事は卵を産むこと。働き蜂の平均寿命が半年以内とすれば、女王はその何倍もの期間生き、子孫を残す。
 人間の既婚女性はこの働き蜂と女王蜂の両方の役割をする。家事、就労、出産、育児、教育。親をみることもある。男女平等思考が進んでいるとされる欧米諸国はともかく、世界の多くの国ではここに上げた役割のほとんどが妻の役目。
 日本で育児を手伝う「イクメン」が登場して久しい。だが家庭内や夫婦間において家事を主体的に行う意識は広がっただろうか。
 児童虐待問題での加害者は6割が母親だという(厚労省調査)。「自分の腹を痛めて産んだわが子に手を上げるなんて」という人がいる。もっともな感想だ。妊娠初期から栄養に気をつけ、薬は飲まず、なるべく自然な出産を希望する日本人女性。そんな彼女たちがなぜ子どもを死に至らしめるまで変化するのか。
 夫の仕事の関係でワンオペレーション育児を少なからず経験した自身の立場で思うのは、そうした母親は疲弊しているということ。身体的に、経済的に、世間の思う良き母親像からのプレッシャーに、彼女たちは疲れ果て、その結果余裕をなくす。
 虐待により子どもが傷ついてからでは遅い。そうなる以前の母親の救済こそが抜本的な解決策なのではないか。幼児のうちから男女分け隔てなくひと通りの家事を学ばせ女性の負担を減らす。「忙しい雌蜂」を減らすことこそ第一歩と考える。【麻生美重】

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