お守り

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 私事で恐縮だが、9月1日、70歳の誕生日を迎えた。69歳から一つ年をとっただけなのに、何かが劇的に変わり、それ以後は嬉しさで一杯の日々を過ごしている。これまでも年を重ねることは、寂しさより満足感のほうが大きかったが、心に溢れる充足感は今回が初めてである。おそらく、70という大台に乗ったせいだろう。滞米生活40年、出産の前後4週間産休をとった以外は、絶えず働き続けた。これからも全力で仕事に打ち込むことに変わりはない。
 70歳を前に、5年毎の運転免許更新と仕事上の4年毎のライセンス更新が重なった。仕事上のほうは、8科目を勉強し、テストをパスし、更新となる。これは20年間やり続けたことなので、問題ない。困ったのは、運転免許の方だ。通知を読むと、目のテストがあるという。目が特別、弱い。白内障の手術をしなければ、目はパスしない。運転出来なければ働けないし、日常生活もままならない。仕事に行けない自分の姿は考えられない。自分の意思で行きたい所に行けないなら、米国生活の魅力は半減する。
 仕事に行けない、運転できない恐怖に打ち勝つには、今、自分にできることを一つ一つ行動に移してゆく外ない。DMVに予約を入れる。アイドクターへの予約、手術のスケジュール。これらは相手のあることだから、こちらの都合通りにはならない。自分ができることをやり、後は、その時々に、忍耐強くベストの対応をする以外ない。
 幸い運転免許期限が切れる2週間前に、目のテストと筆記試験をパスし、5年間のリアルIDをもらった。その前の不安が大きかった分、嬉しさが増した。ありがたいことに、まだまだ働ける。白内障手術後は世界もキラキラ輝いて見える。新免許証を手にすると、米国で初めてそれを取得した時の自分の姿が蘇ってきた。無一文でも希望に燃えていた。親としての責任を終えた今、これから先の年月が、自分の第二の青春かもしれない。これまでの幸運に感謝し、社会にどうお返しできるか、考える。免許証がお守りのように見える。【萩野千鶴子】

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