LAの路上に眠る才能

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 人々が行き交ういつもと変わらぬ街の中に、ふと非日常が紛れ込むことがある。それは時として人々の心に衝撃を与え感動を呼び起こす。そんな現象がロサンゼルスでも起こった。
 先月末、コリアタウンの地下鉄ホームで、プッチーニのオペラ「ジャンニ・スキッキ」の中の名曲「O Mio Babbino Caro(私のお父さん)」を歌うひとりのホームレス女性の動画がLA市警察(LAPD)のツイッターに投稿された。。女性の名はエミリー・ザモールカさん
 LAの地元テレビ局の報道によると、ザモールカさんは30年前にロシアから米国に渡り、音楽を教え生計をたてていたが、数年前に1万ドルするバイオリンを盗まれ、商売道具を失ったことで家賃が払えなくなり、2年前から路上で生活しているのだという。
 しかしこの動画がきっかけとなり、今彼女のもとには音楽関連のオファーが殺到している。動画を撮影したのはLAPDの警官。その警官は街にはびこる悪をとらえるだけでなく、街に眠るひとりのホームレスの才能もとらえたのだった。
 今回の出来事を見ていて、2005年にロサンゼルス・タイムズ紙のコラムニスト、スティーブ・ロペス氏が書いたホームレスの天才チェロ奏者についてのコラムを思い出した。ロペス氏はある日、ホームレスの男性ナサニエル・エアーズが路上で奏でるチェロの音色に魅了される。調べるとナサニエルはかつてジュリアード音楽院に在籍し、将来を嘱望されたチェロ奏者だったのだ。このことをコラムに書くと大きな反響を巻き起こし、数年後にはこのコラムをもとにした映画「ソリスト」も公開された。
 先月中旬にはエール大の経営学部を卒業後、ウォール街で働いた経歴もある男性が今はホームレスとなってコリアタウンの路上で生活していることも報じられていた。
 400万人が暮らすLA市には、3万6千人のホームレスがいるとされる。この数字の中にどれだけの隠れた才能が埋もれているのだろう。ハリウッドもあるエンターテイメントの都、LA。星の数ほどいる人ごみの中に眠るダイヤの原石は、路上に潜んでいるのかもしれない。【吉田純子】

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