ニューヨーカーの悲鳴

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 世界の中心都市ともいえるニューヨークが悲鳴をあげている。同時多発テロ、大停電、ハリケーン・サンディー、あらゆる試練を乗り越えてきたこの街が、今、新型コロナウイルスの最大の標的になっている。今や感染者数がどの国より多いアメリカだが、ニューヨーク州は断トツ。
 この街に住むわれわれ日本人も、ニューヨーカーとして、コミュニティーの一員として協力し合い、感染拡大を防がねばならない。しかし、一部の人間はアジア人を逆恨みし、ヘイトクライムを引き起こしている。FBIも、今後事件が増加しないよう注意を促している。
 ロックダウンが発令されて以来、感染から身を守るために外出を自粛。ただでさえストレスがたまっているのに、必要最低限の食料品の買い物にすら、マスクと手袋という出で立ちで外出しなくてはならない窮屈な思いをしている。さらに多くの人は失業、営業停止という経済的に非常に不健康な状態だ。その上、いつ現れるかもしれぬ人種差別行為に細心の注意を払わなければいけなくなる、この状況、精神状態はわれわれアジア人にとって、ウイルス以上に脅威ではないだろうか。
 人間は異常事態にパニックを起こす。トイレットペーパーを買い占めても状況は変わらないのに、メディアに翻弄(ほんろう)され、犯罪者から身を守るために銃を買いに走る。不条理な憎しみは無意味な対立を生み、不安と恐怖は人間の感性をまひさせる。
 世間ではこの状況を「戦争」と表現しているが、ウイルスにしろ、憎悪にしろ、相手が見えない戦争に勝ち目などない。経済的に持ち堪えられるかという根本的な問題もあるが、これは忍耐との勝負ではなかろうか。平常心をどこまで保てるかという自分自身との闘い。
 この2日間ほどで、友人、知人、著名人が次々と他界した。まるで人生の歴史が少しずつもぎ取られていくかのような思いだ。考えたくもないが、今後もウイルスの犠牲者が出ない確証はなく、自分ですら「明日はわが身」と真剣に考えてしまうほどだ。
 今日はエイプリルフール。これが全部うそだったら…。そんな空虚な妄想にしがみつきたい春の自宅待機の一日である。【河野 洋】

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