死亡者の民族情報を示したカリフォルニア大学サンフランシスコ校医学部内科教授のタン・ニュエン医師
 カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事がいくつかの低リスクのビジネスを再開すると発表したのを受けて、その決定が公衆衛生と経済に影響を与える度合いについて、専門家がエスニック・メディア・サービスのブリーフィングで検討した。

 8日、ロサンゼルス郡では、花屋、書店、おもちゃ屋などの特定の小売店がカーブサイドサービスを再開できるようになった。翌日9日にはハイキング・トレイルと公園が再開された。このように郡がゆっくりと再開を進める一方で、保健当局は新たな新型コロナウイルス感染1011例と死者44人を報告した。—これは困難な道のりの象徴である。
 カリフォルニア大学サンフランシスコ校医学部内科教授のタン・ニュエン医師はソーシャルディスタンシングが全米で緩和されているが、状況は依然として「非常に悲惨」であるとし、「パンデミックが減速していることは確かだが、一部の指導者が社会的距離をとる措置を押し戻し始めているのは悪い知らせだ」と述べた。
 カリフォルニア州では9日時点で感染者64561人、死亡者2678人が報告されている。その中で民族情報が明らかになった死亡者1352人の内訳は、39%がヒスパニック系、29%が白人、18%がアジア系、12%が黒人、1%がハワイ先住民または太平洋諸島系というものだった。これを、全人口に占める割合を考慮に入れると、10万人あたりの死亡者は白人が9人なのに対し、アジア系は12人、ヒスパニック系は15・5人、黒人18人、ハワイ先住民のコミュニティーでは89人となり、死亡率に驚異的な違いがあることが分かった。パンデミックが進むにつれて、少数派コミュニティーへの影響の格差はさらに深刻化している。
 ニュエン医師は、食肉加工場が感染のホットスポットになり、工場の25%が操業停止していることを例に挙げ、「トランプ大統領は工場を閉鎖しないよう行政命令を出したが、工場のマイノリティー労働者を守る新しい措置が取られるのか、または比例して労働者が苦しむのか、こういった点は明らかではない」と述べた。
 公衆衛生局は、4月27日までに、115の食肉加工場で感染者が確認されたと報告した。感染者の数は4913人で、そのうち20人が死亡した。
 「医療、食品製造や配達など、業種はさまざまでも、マイノリティーがエッセンシャルビジネスに占める割合は高く、彼らがこの戦いの最前線にいるということを忘れてはならない」
 カリフォルニア大学ロサンゼルス校「ラテン系米国人の健康と文化に関する研究センター」のディレクターを務めるデビッド・ヘイズ・バウティスタ医師は、無保険のラテン系米国人に対する新型コロナの影響に関する研究の結果を共有した。カリフォルニア州では、健康保険に未加入のラテン系米国人は、非ラテン系米国人の2倍である。そのため、病気のまん延の全体像はまだ不明だという。

ラテン系米国人に対するコロナの影響の研究結果を共有したデビッド・ヘイズ・バウティスタ医師
 ヘイズ・バウティスタ氏は、「無保険でヘルスケアを利用できないコミュニティーについては、感染率がかなり過小評価されていると思う」と述べた。
 保護対策の規制を緩和するかどうかの決定に関して、カリフォルニアでは現在、人口100万人あたりの感染者は約1100人である。対照的に、ニューヨークでは100万人あたりの感染者は1万5100人である。州の経済再開を要求する抗議が盛んに行なわれているミシガン州では、100万人あたりの感染者は4千人だ。
 「ミシガン州の抗議運動は、カリフォルニアの4倍の感染率であるにもかかわらず、一切の規制を解除することを望んでいる」、とヘイズ・バウティスタ氏は言う。 「感染者を示すグラフの曲線は、まだその時点に達していないと見えるが、保護措置を緩和しても影響を受けない人々による政治的圧力により運動が起こっている」
 ラスベガスにあるネバダ大学健康格差研究センターのディレクター、メルバ・トンプソン・ロビンソン氏は、早期の再開はアフリカ系米国人のコミュニティーに壊滅的な打撃を与えると述べた。
 アフリカ系米国人のコミュニティーにとっての課題は、彼らがエッセンシャル労働者と見なされる立場で働いているが、彼らは医者や看護師ではなく、用務員や施設管理の一部である点だ。不可欠であると考えられているが、多くの人が低賃金で、最低限の健康保険しか与えらていない」
 さらに同氏は、アフリカ系米国人は、より悪い結果につながるヘルスケアの暗黙の偏見の影響を受けていると指摘した。「暗黙の偏見という新しい概念があり、人々は『私は人種差別主義者ではない』と言うかもしれないが、行動は偏見に基づいて少し異なった方法で対処している」
 一方で、ヘルスケアシステムの不平等に焦点が当たったことはプラスの影響と言える、とコメントした。「このパンデミックから抜け出した後、これらの会話が続くことを願っている。エッセンシャルな労働者がそれほど健康でないと分かった今、私たちは対話を持ち、私たちが目にするこれらの格差に対処する必要がある」
 非営利の政策および擁護団体である「チルドレンズ・パートナーシップ」会長のメイラ・アルバレス氏は、移民家族の子供たちが最も取り残されるリスクが高いと述べた。
無保険の人の割合を示すグラフ。マイノリティーの保持率が低い状況は変わっていない
 「学校が閉鎖されたことで、特に栄養を学校に依存している子供たちにとって、子供たちの健康と幸福に前例のないリスクが生じた」とアルバレス氏は言う。
 同団体の調査によると36%の家庭が食事の回数や量を減らしている。カリフォルニア州で0〜5歳の子供を持つ家庭の半数以上は、個人の財政状況に不安を感じ、3分の1以上は、家族の基本的なニーズ(食料、住居、医療など)の支払いに自信がないと回答した。アルバレス氏は、この調査結果に「落胆した」と語った。
 新型コロナはカリフォルニアの家族の肉体的、精神的、感情的な健康を脅かしているが、この危機の影響が子供たちにどのように現れるかは、両親や保護者が医療、食事、住宅などの基本的な費用を心配する必要があるかどうかにかかっている。
 アルバレス氏は、両親が子供たちの世話をできるように、親のための財源を増やす必要があるとし、「子供たちの健康、生育と安全について考えることは、将来の私たち全員にとって不可欠である」と強調した。【村中グウェン、訳=長井智子】

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