店頭破壊、ナイフで脅迫も・反アジア的な憎悪の標的に

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トーレンスのマツイ・レストラン

店頭の左右両端の窓ガラスが割られる被害に遭ったマツイ・レストラン

 サクサクのエビ天ぷらが乗った大ぶりの天丼で有名なトーレンスの「マツイ・レストラン」。長年の店長であるアルトゥーロ・ラミレスさんは、紙のマスクをつけてニコニコしながら、ヤンキースのスラッガーだった松井秀樹選手がホームランを打つたびに、「特製マツイ丼」を食べに来る客の行列ができたものだ、と話す。

マツイの人気メニューの天ざるそば(左)とマツイ丼

 「1日で400食のマツイ丼が出た時は、ヘアサロンのあたりまで長蛇の列だった」、とラミレスさん。
 松井選手の野球記念品はまだ内装として飾られているが、今の店内にはどの席にもお客がいない。椅子は空で、「持ち帰りのみ」と書かれた大きな看板がある。3月にパンデミックが始まってから営業は挑戦の連続だった。だが、まさか反アジア的な憎悪の標的になるとは予想していなかった。
 同店の被害は、トーレンスで起こっているヘイト事件の最新である。13日朝、店内の防犯ビデオは、何かを投げ付けて店頭の大きな2枚の板ガラス窓を割る男の映像を記録していた。
 翌14日には、同店親会社の日本人マネージャーが目撃情報と同じ特徴の男をカーソン近辺で偶然発見。警察に通報しようとしたところ、いつの間にか近づいてきた男にナイフで脅かされた。

ヘイト犯罪に負けず前進
メキシコ系人気店長「コロナ禍を生き残る」

 店頭のガラスが割られたマツイ・レストランの事件で、安全上の懸念から匿名を条件に羅府新報の取材に答えた目撃者は配達員で、同店に業務用食材の野菜を届けにきたところだった。同じモールにある「ダイソー」に自転車に乗った男が大きな石を投げ付けているところを車の中から見たという。

破壊されたガラスは修理され、「To GO!」の大きなサインが目を引く

 「それからマツイに向かって歩き始めた。また石を拾いに行き、私を見て、こう言った。『お前は日本人だな。日本がCOVIDを始めた。同時多発テロ(9・11)も日本のせいだ』。私が電話を持っていたので警察に電話していると思ったのだろう。私の乗っていた会社の車に向かって、石を投げ付けてきた。フロントガラスにひびが入り、車の前部にもぶつけられたので逃げた」。配達員は当日を思い出してこのように話した。「誰もケガをしなかったのがせめてもだった」
 被害届はトーレンス警察に出された。マツイ以外にも、同モール内の人気ベーカリー85℃の裏口側の窓も割られていた。
 マツイの店長のラミレスさんは、この日は割れたガラスの応急修繕のために午後は店を閉めなければならなかったと話した。
 同店はスシボーイ、ガッテンすし、麦まる、とり鉄、丼丼亭などの日本食レストラングループの一部で、シカゴとテキサスのミツワマーケット内や、トーレンスのデルアモ・ファッションセンターの新しいミツワ内にも系列店がある。
 このグループのオペレーションを担当する日本人マネジャー(匿名)が翌日、近隣で車を走らせていた時に、ノルマンディー通り付近で犯人らしき男を発見した。「前日、目撃者から聞いていた特徴と全く同じだった。同じ服で通りを歩いていた。99・9%確実に犯人だと分かった」。男はカーソン通りの北側のショッピングプラザにいた。
 マネジャーは、ショッピングプラザに駐車し、車から降りてトーレンス警察に電話をかけたが、居場所を告げると「その場所はトーレンス警察ではなくロサンゼルス警察の管轄だ」と言われた。あらためてロサンゼルス警察にかけようとしていたとき、容疑者が気付き、近づき始めたという。
 「スマートフォンに気持ちが集中していたので、男を見ていなかった。目を上げた時、男が『お前はアジア人か?』と叫びながら、さらに近づいてきた。『お前はアジア人か?』と何度も言っていた」と振り返る。
 「段階的に、3メートルぐらいの距離まで詰め寄られた時、男が手にナイフを持っているのを見た」。マネジャーは刃渡り20センチほどのナイフだったことを手で指し示した。
 「『ああ、この男は普通じゃないし、交渉もできない』と思った。本当に怖かったので身を翻して逃げた」
 マネジャーは911にダイヤルし、駆け付けたロサンゼルス警察がその場で容疑者を逮捕した。逮捕されたアーロン・サットン・エンジェルス容疑者(36)は、カーソンでの凶器による攻撃、トーレンスでの破壊行為と憎悪犯罪の容疑で起訴された。
 この事件を受けて、日本総領事館は最近の反アジア事件の波に対応して声明を発表した。
 事件の1週間後、マツイの窓は修理され、ビジネスは通常に、いや、少なくとも「最近の通常」の状態に戻った。

人気のマツイ丼をサーブする店長のラミレスさん

 本格的な日本料理を提供するマツイで働く人の多くはラテン系のスタッフで、店を任されている店長のラミレスさんはメキシコのオアハカ出身だ。
 ラミレスさんは1996年にマツイの前身だったミシマでバスボーイとして働き始め、食器洗い係、そして店長にまでなった。飲食店は、移民がアメリカンドリームを体現する場所だと言える。
 ラミレスさんは自分の子供たちについて、誇らしく思っている。1人は加州立大学ロングビーチ校を卒業し、現在ドリームワークスで働いている。別の娘は大学生で、Netflixでインターンシップをしている。息子はサンタモニカカレッジに通っている。「私はラッキー。私の子供たちは頭が良いんです」とうれしそうだ。
 ラミレスさんは、「マツイは顧客の忠誠心のおかげで新型コロナ禍を生き延びている」と感謝する。顧客に人気の同店のメニューは、そば、うどん、なべ焼きなどで、作り置きはせず、すべて注文を受けてから調理している。
 「多くの常連客がサポートしてくれている。遠くまで運転しなければならない場合でも、立ち寄ってくれる。私たちはこれらの忠実なお客さまがいることを幸運に思っている」
 ラミレスさんは続ける。「ローカルテレビ局に勤める女性の顧客は、ハリウッドに住まいがあるのに、おばあちゃんを連れてわざわざ来てくれる。このおばあちゃんは95歳なのに、コンボをペロリと食べて、元気いっぱい。『いつも家庭菜園で野菜を育てることに忙しい』と言うような人。昔は彼女が子供たちを連れてきていた。今は孫に連れられて来る。家族の絆が強いのを見ることはいいことだ。メキシコでは、私たちは常に両親の世話をしており、子供たちは親が亡くなるまでいつでも彼らのためにそこにいる。それが本来あるべき姿だど思う」
 マツイ・レストラン
 21605 S Western Ave. #G
 Torrance, CA 90501
 営業時間などの詳細は、ホームページー
 matsuiusa.net
【グエン・ムラナカ、写真=マリオ・レイエス、訳=長井智子】

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