者会見で調査結果について意見を述べる笹川陽平会長
 日本財団(東京、笹川陽平会長)は小東京の全米日系人博物館(JANM)と共同調査で世界各地に住む若い世代の「日系人」を対象とした初の世界調査をこのほど、実施した。8月31日に開いた記者会見で「74%の若手日系人は日系人としての強い意識を持っている」などの調査結果を報告した。

調査結果を踏まえてこれからの事業展開を考えると述べた日本財団の笹川陽平会長
 日系人移民の歴史は1868年にハワイへ集団移住したのが始まりといわれ、その後、北米や南米にも集団移住があり、またフィリピンなどアジアにも多く移住した。初期は日系人会や県人会が移住者を支えコミュニティーが発展し、今では場所によっては6世〜8世まで世代が進んでいる。一方で、近年のグローバル化とともに世界各地に移住した日本人も増え、新日系人、新1世などと呼ばれている。「海外日系人協会」は日系人を 「日本から海外に本拠地を移し、永住の目的を持って生活している日本人並びにその子孫で、国籍、混血は問わない」としている。 日系人は世界に380万人いるといわれ、南北米大陸に特に多い。
 今回の調査は日系人を世代数や他国人との混血の有無にかかわらず「海外に移住した日本人及びその子孫」と定義し、南米・北米・アジア・欧州・豪州に住む18〜35歳の若者を中心とした3800人にオンラインアンケートを実施した。また、12都市で10人前後のフォーカスグループによる座談会を行った。調査項目として「日系人の重要な価値観」「文化的要素」日系人同士のつながり」などに焦点を当てた。 今までこのような世界規模の意識調査が実施されたことはなかった。
記者会見で結果を発表する大久保郁子さん
 同財団の大久保郁子さんは記者会見で、結果を発表した。80%超が「頑張る」という日本人特有の価値観に影響を受けたと回答し、「尊敬」「感謝」「もったいない」が後に続いた。
 「少し」以上の日本語を話せる若者は64%で、 日本語能力は年配者よりも劣るが、73%が日本語力向上への強い学習意欲を示した。80%の若者が少なくとも週に1〜2回以上は和食または日本食風の食事をしていると回答した。重要なお祝いやお祭りの質問では花見、七夕、お盆、お祭り、新年会、忘年会といった他の選択肢を抑えて、年代地域を問わず「正月」を挙げる人が群を抜いて多かった。
 若手の日系人はSNS(64%)、Web(53%)、集会(53%)、カンファレンス(47%)を通じて「世界中の日系人とつながりたい」と答え、他国の日系人との連携強化にも興味を示している姿が明らかになった。「興味がない」と答えたのはわずか10%だった。
 「地元の日系コミュニティーに感じるつながり」については「強い(46%)」と「適度(27%)」を合わせて73%が肯定的だが、回答には地域差が見られ、北米、南米、アジアが高いのに対して欧州とオセアニアは低めだった。
若手の日系人は他国の日系人との連携強化に興味を示している姿が明らかになった。「興味がない」と答えたのはわずか10%だった
 「日本とのつながり」については「強い(48%)」と「それなりに(31%)」を合わせて全体の79%が「それなり」以上につながりを感じているが、地域で見るとアジアが92%なのに対し北米ではこの割合は70%だった。つまり北米の若手の3割が日本とのつながりは低いと回答し、これは調査した5地域の中で最低だった。
 「母国(居住国)とのつながり」については「強い(71%)」と「平均的(22%)」を合わせて93%が母国につながりを感じている。この割合は北米では96%だった。
 これまで、若い世代は日系人としての意識が希薄化し現地化すると言われてきたが、この調査からは回答者の多くが日系人として強いアイデンティティーを確立し、現地社会だけでなく日本にも強いつながりを感じ、また他国に住む日系人とのつながりを求めるなど、現代社会において多様化する新たな日系人像が明らかになった。
「強い(48%)」と「それなりに(31%)」を合わせて全体の79%が「それなり」以上に日本とのつながりを感じているが、地域別で見るとアジアが92%なのに対し北米の割合は70%で平均以下だった
 トランスナショナルでグローバルな若い日系人像の前には、日本からの視点も現地で苦労をしている日系移民を支援するというこれまでの意識から、日系人をパートナーとするという意識に変わる時がきている。 1970年代から日系人一世や二世への支援事業を展開してきた日本財団の笹川陽平会長は、「この結果を踏まえて新しい事業に生かしていきたい」と述べた。今後は若い世代の日系人と日本の連携強化や、若手日系人同士の関係構築など、新たな支援事業が打ち出されることが期待される。
 記者会見中、「米国では戦時中の強制収容を経験した日系人がその後日本と距離を置いた時代があったが、若い世代は自国内のマイノリティーとして、アイデンティティーを確かめたいという意識があるようだ」との興味深いコメントがあった。
 今回の調査の対象に表れない、日本人の血を引くものの代を重ね日系人としての意識を全く持たない人々も実際には多くいると思うが、「日系人」を「喚起」できるかどうかは日本人や日系人と名乗ることが「誇らしい」ことであり続けると事がまず大事だと、この調査を通じて改めて感じた。

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