火だるま御免

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 江戸時代に始まったとされる「火の用心」。火事を未然に防ぐために夜警団が拍子木をたたいて「マッチ一本火事の元」と街を歩いたのは一昔前のことだが、子供の頃から、火を扱う時は十分に気を付けるよう親からしつけられたし、マッチの火などは小さいからすぐに消せると言って甘く考えると、大やけどをすることがある。危険な火遊びは大人だって怖い。
 実際、30年ほど前に電気ストーブをつけっ放しにして寝落ちしてしまったことがあったのだが、布団がストーブに接触して発火し、熱を感じて目覚めたら目の前に炎がメラメラと燃えていて、飛び起きて消火したことがある。この時は幸運にも大事故には至らなかったが、少しでも気付くのが遅かったらと思うと恐ろしい。
 しかし、子供の頃はきれいな花火が楽しく、大人がたばこに火を付けるしぐさに憧れたり、シュッというマッチが擦れる音や独特の匂いなど、「火」に憧れの世界をも見出したりしたものだ。アンデルセンの童話「マッチ売りの少女」では、凍える寒さの中で、主人公はマッチの灯火がもたらしてくれる温かさと幻想に救われる。現代でも停電になった時はマッチ一本とろうそくさえあれば、暗闇を遠ざけ、心細くなった気持ちを取っ払ってくれる。
 そんなマッチの使い方は他にもあり、その一つに排便の後の消臭効果がある。消臭スプレーがある便利な時代だが、わが家は原始的なやり方で、トイレにマッチ箱を常備しておき、用を足した後は火をともす。この行為は意外と心を落ち着かせる効果もあるように思う。
 新型コロナウイルス感染拡大から一年以上が経過し、世の中は火だるまのような状況が続き、誰も彼もが火の粉を浴びているかのようだ。パンデミックの火種は見つからずとも、ワクチンが火消し役になってくれることを願い、オリンピックの聖火が消えないよう、せめて気持ちだけでも希望の火をともし続け、火だるまになることだけは是が非でも回避したいと切に願う。と、火にまつわる話ばかり書きつづっていたら、原稿の締め切りの時間を優に過ぎてしまい、お尻に火がついてしまった。ふと気付いてみれば、今日は火曜日か。【河野 洋】

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