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音楽の散歩道
鳴釜の神事
2008年4月11日

おがわ・ひろこ

小川弘子

神戸大学教育学部音楽科卒。同
大学院修士課程修了。専門はピ
アノ。歌曲、オペラアリアなど
声楽の伴奏を得意とする。97年
に渡米し教会、コミュニティー
団体などで伴奏している。

 桜の開花には少し早い3月下旬のある日、岡山
市にある吉備津(きびつ)神社を訪れました。桃
太郎さんのモデルである吉備津彦命(きびつひこ
のみこと)を祭神とするこの神社を訪問した目的
は、鳴釜(なるかま)という珍しい神事を体験す
ることです。

 神事が行われるのは、神社の中のお釜殿(おか
までん)といういわば別棟です。実際に神事が始
まる前にまず神官より、鳴釜は吉備津彦命に祈願
したことが叶えられるかどうかを釜の鳴る音から
占う神事であること、その音の大小長短より吉凶
禍福を判断するものではあるけれども、その答え
について神官は何も言わないので自分で感じ取る
こと、という説明がありました。釜はいつも必ず
鳴るというわけではないので、鳴らないとがっく
り落胆する人もあるようです。さすがの私もやは
り気になります。

 

 神事は神官と阿曽女(あぞめ)と呼ばれる年配の女性によって執り行わ
れます。代々この阿曽女というのは、阿曽の郷という神社近くの集落出身
の女性がご奉仕として務めてきました。さていよいよ、鳴釜の神事の始ま
りです。長年の煤によって黒光りしたお釜殿の内部は、薪からの煙と水を
はってセイロをのせた釜からの湯気で白く煙っていました。神官が拍手を
打ち祝詞を読み上げると、阿曽女がセイロの蓋を取り除き玄米を入れたザ
ルをセイロの中で振り回し始めます。一心にザルを振る阿曽女の姿を見て
いるとその時、「ぼぉ〜〜」というか「ごぉ〜〜」というか、地の底から
のうなりのような音が聞こえてきました。そうです、めでたく釜が鳴った
のです。鳴るというよりお釜殿全体がうなっているという感じでしょう
か。かなり長い間鳴り続けていたように思います。神官の拍手を合図に阿
曽女はセイロに蓋を戻し、神事は終了です。

 なぜ、釜が鳴るのか? なぜ、鳴るときと鳴らないときがあるのか? 
どうしたら大きな音が鳴るのか? 音が長く続くのか? くべる薪の数や
気温、湿度とどのように関係があるのか? 薪の種類を変えたら、違うタ
イプの音が鳴るのか? 科学的に実験をすると、確かな答えが出るのかも
しれません。しかし、室町後期にはすでに京の都にまで知られていたとい
うくらい長い歴史のあるこの神事に、そのような科学的な証明や数字など
はいかにも不似合いであると思われました。

 上田秋成の「雨月物語」にも登場するこの鳴釜の神事は、最近ではテレ
ビや雑誌などで取り上げられることも増え、サスペンスドラマの舞台にな
ることもあるそうです。そんな直後はバスを連ねての観光客が殺到すると
か。うーん、それってちょっと違うと思うんだけど……なんてつぶやきな
がらも、お釜がしっかりと鳴って占いの結果が「吉」と出たことにホッと
安心し、心静かに帰途についたのでした。

 

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