今から約1000年前、まだ記譜法も非常に単
純なもので、音名という感覚もない時代のお話で
す。キリスト教の教会で礼拝中に歌う聖歌や賛歌
も、まだまだ口伝、つまり聴いて歌って覚えるの
が基本でした。そこで、イタリアの音楽理論家で
あるグィード・ダレッツォは、何とか音だけでも
覚えやすくわかりやすい方法はないものかと思案した結果、あることに気
がつきました。聖ヨハネの祝日(6月24日)に歌う賛歌は、各句の最初
の音が順次高くなっているのです。ラテン語による歌詞は、こうです。
Ut queant laxis
Resonare fibris
Mira gestorum
Famuli tuorum
Solve polluti
Labii reatum
Sancte Ioannes
大訳すると『あなたの僕(しもべ)が、あなたの奇跡を歌えるように、
けがれた唇から罪を拭い取ってください。聖ヨハネ様』となります。
ここで、最下段以外の下線をつけた各節の最初の歌詞に注目してくださ
い。Ut、Re、Mi、Fa、Sol、La。あれっ? これって、〈ド
レミ〉に似ているんじゃないの? と思われた方、正解です。グィードは、
最初の音Utを基準にして、音に名前をつけたのです。イタリアでは後に
言いにくいUtをDoに変更することにし、残っていた最下段の音を下線
の2文字よりSiということにしました。これで晴れて、ドレミファソラ
シドという音階が出来上がったのです。フランスでは今でも、ドのことを
Utと表していますし、伊仏両国とも、〈ソ〉はSolのままです。日本
では、より言い易くするために〈ソ〉にしたのでしょう。UtをDoにし
た経過は、正確なことはわかっていませんが、ラテン語で『主(しゅ)』
を表す言葉である『Domine(ドミネ)』から来ているのではないか、
という説があります。音階の主(しゅ)になる音、音楽の基礎を表す音で
あることから、そのような説が出たのだと考えられています。
このグィードという人は、〈ドレミ〉を考え出したのみならず、それま
で2本線で表されていた楽譜を4本線へと進化させた人でもあります。現
在の五線譜と比べると、まだ単純ですが、線の数をそれまでの2倍に複雑
化し、記譜法の進歩に大いに貢献したのです。この人がいなければ、「ド
レミの歌」もなかったかもしれません。
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