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音楽の散歩道
ヴンダーリヒの甘い歌声
2009年4月12日

おがわ・ひろこ

小川弘子

神戸大学教育学部音楽科卒。同
大学院修士課程修了。専門はピ
アノ。歌曲、オペラアリアなど
声楽の伴奏を得意とする。97年
に渡米し教会、コミュニティー
団体などで伴奏している。

 今は、もうその絶頂期を越えてしまいました
が、パヴァロティ、ドミンゴ、カレラスの3大テ
ナーの人気はつい10年位前までは圧倒的、熱狂
的なものでした。世界各地で行われたコンサート
は、チケットの金額が天井知らずのうなぎのぼり
になっても、必ず完売。リリースされたCDも大
売れ。オペラの好きな人はみな、この3人のうち
誰が一番好きか、理由をつけて話したがったもの
でした。しかし、私の個人的な意見として、やた
らと大きな声を張り上げて、繊細さなんてどこか
に置き忘れてきたように聞こえる3大テナーのコ
ンサートには、何となくついていけないという
か、ひいてしまうような気がいつもしていまし
た。

 私のお気に入りのテナーは、その頃も今も、フ
リッツ・ヴンダーリヒです。この名前を聞いたこ
とがある人は、たぶん少ないと思われます。その
絶頂期である歳で不慮の事故により、突然死した
からです。もう40年以上前のことです。ですか
ら、今もし生きていたら、80歳近くになってい
たわけです。

 ヴンダーリヒはドイツの田舎町に1930年に生まれ、フライブルクの
音楽大学を卒業後、シュトゥットガルトやミュンヒェンの歌劇場と契約を
結び、ザルツブルクの音楽祭やウィーン国立歌劇場などヨーロッパ各地の
オペラハウスの舞台を踏みました。オペラだけでなく、シューベルトやシ
ューマンなどのドイツ歌曲もレパートリーとし、リサイタルや録音なども
多く行いました。

 その美しく甘い歌声は、死後40年以上経った今でもファンが多く(私
もそうです。)、聴いていると思わずため息が出そうになるほど。十八番
であるモーツァルトのオペラ「魔笛」のタミーノもいいですが、お勧めは
シューマンの歌曲集「詩人の恋」。このなんともロマンチックな曲集を、
だれがヴンダーリヒ以上に歌えるかと思うくらいです。この人の録音を聴
いてしまったら、私なんて、他の歌手のを聴く気がしません。

 でも、実は1番のお勧めは、コンチネンタルタンゴの名作「奥様お手を
どうぞ」。歌詞は人妻に恋焦がれている男性の燃えるような思いなのです
が、これをもし耳元でこんな風に歌われたら、世の中の奥様方は皆、腰が
抜けて思わず許してしまうのではないかと思うくらいです。参りました〜
〜って感じです。

 ヴンダーリヒは、36歳の誕生日を迎える直前、友人宅の階段から落ち
て頭部を強く打ち、あっという間に亡くなってしまいました。お酒が好き
で、その時も酔っていて足を滑らせたという説、落ちたときに階段の途中
に飾ってあった燭台が頭に突き刺さったという説などもありますが、真偽
のほどは定かではありません。確かなことは、そのような不幸が起きず、
そのまま歌い続けていたら、世界中の歌劇場やコンサートホールで大活躍
し、日本やアメリカでも演奏会が行われ、3大テナーの上の世代を代表す
る歌手となっていたであろうということです。

 現代はインターネットという便利なツールを使って、40年以上前のヴ
ンダーリヒの映像や演奏が自宅にいながらにして見聴きできます。歌の好
きな方、興味のある方、ぜひぜひ一度聴いてみてください。とにかく甘く
優しいしなやかな声です。

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