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 野本一平さんと初めてお会いしたのは、ちょうど5年前の3月でした。私が書いた円空の文章から結ばれた縁でした。私の母親の生家の近くに円空博物館があり、木に荒削りに彫られた不思議に微笑む仏像があることを書いたのですが、それを読んで伝えたいことがあると思ったのか、何の取り柄もない私に円空について書いた自身の原稿が送られてきたのでした。

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 父が本好きだったせいか、家にあった本をひたすら読んでいた時期がありました。決して自分が好きな本を読んでいたわけではなく、それは父が好んだジャンルの本でしたので、戦記や歴史物など小難しい文章でしたが、少なくとも文系に染まっていきました。特に予備校でカリスマのような現代国語の教師に出会ったこともあってか、国語以外には興味を示せず、大学では日本文学を専攻し、国語教師の免許まで取得することになりました。

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 かつて伊勢湾台風が明治以降で最大の被害をもたらした後、庄内川と新川に挟まれた輪中地区に建てられたのが、私が生まれ育った公営の復興住宅でした。ここに住む多くの人が家や財産を失った人たちでした。母はそんな人たちを相手に集合ストアーの中の小さな店を借りて、菓子屋とパン屋をはじめました。

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 長尾和宏医師原作の「痛くない死に方」という映画の中で、末期のがん患者に健康のために止めさせていた酒やタバコを医師が勧めます。さまざまな人の死に方を通して、人間らしい死の迎え方を考えさせられる作品です。終末をどこで過ごしたいか希望を聞くと、多くの人は自宅で最期を迎えたいと答えます。

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 訪れたのは晴れた日でしたが、昨年の台風による千曲川の氾濫によって鉄橋が半分崩落しており、一番近い列車の駅にはバスでの代行運転での行程でした。畑を抜けて山の中腹に位置する場所に、無言館はありました。コンクリート色むき出しの建物には、「戦没画学生慰霊美術館」と書いてありました。

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 福井県は、幸福度が高い地区だといわれています。これは健康、文化、仕事、生活、教育という基本的な指標で毎年、住民からの直接のアンケートで集計されるそうで、実際に全国学力テストや、平均寿命も日本の中では常に上位に入っているのです。何よりもここに住む人自身が、福井は幸福度が高いということを知っていることが、幸福な街に住んでいるのだという実感を生んでいくのかもしれません。

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 大林宣彦監督が永い「ロケハン」に旅立ってから、ちょうど5カ月目に自宅を訪問しました。人が集まれない状況下で、葬式にも出席することができませんでした。玄関の呼び鈴の音が、懐かしくも寂しくも響くと、奥様の恭子さんが笑顔で出迎えてくれました。「今日は監督の月命日にお会いできてよかったです」と伝えると、「そうだったですね」と微笑み、映画の資料がたくさん乗っているテーブルに招かれました。

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 鹿児島の港から高速船で60キロ程南西に行くと、九州最高峰の宮之浦岳を有し、切り立つ山々を緑に彩る原生林に、月間35日雨が降ると言われるほど水の多い島である屋久島に到着します。そして世界遺産にも指定された豊かな自然の恩恵を受けてのことか、自然エネルギー後進国と言われる日本の中において、ほぼ100%の電力が水力などの自然エネルギーでまかなわれている島でもあります。

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 1980年代、英国統治時代の香港で小さな会社を作って、銅羅湾という場所に駐在していました。多くの海外進出した日系企業の方々と、毎夜のように語りあったものでした。私の会社はあっという間に消えてなくなりましたが、夢を実現させて日本を代表する会社に成長させた有能な方々もいました。

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 父が入院したとの突然の連絡がありました。家の庭から用水路に頭から落ちて救急車で病院へ運ばれたとの衝撃的な電話でした。庭は用水路から2メートルほど上、そこから転落すれば頭を強く打ち溺れるはずです。父は今年91歳で田舎暮らしをしています。今この状況で病院へ入院するということは、病院や関係者に迷惑をかけてしまうのではないかと、申し訳ない気持ちにもなりました。

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 冷蔵庫が壊れてしまったので、さっそく購入しに行ったのですが、部品の供給が遅れており納品まで一カ月かかるとのことでした。つまり突然、冷蔵庫のない生活を強いられることになったのです。その日からスーパーに行く度に氷をもらい、玄関においた発泡スチロールの小さな箱がわが家の冷蔵庫となりました。

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 東京に非常事態宣言が出て、満開だった桜が散り始めた頃、大林宣彦監督の訃報の知らせが届きました。4年前に余命宣告を受けてもなお映画を制作し続け、念願の新作の公開予定日に旅立ってしまいました。  東日本大震災の翌年、私は主催する映画祭で大林監督にゲスト出演をお願いするために、何度も足を運んだことを思い出しました。

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