いけばなに生きる:華道池坊の華老新橋和子さん

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池坊ロサンゼルス支部創立40周年記念祝賀式典で専永宗匠(右)から記念の盾を贈られる新橋和子さん=1997年

池坊ロサンゼルス支部創立40周年記念祝賀式典で専永宗匠(右)から記念の盾を贈られる新橋和子さん=1997年

 多忙な日々の中でふと目にする草花の美しさ、いとおしさ。花をながめては心のやすらぎを保ち、話しかけては花の精気をたっぷりもらう。アメリカ生活の長い人も短い人も、また、アメリカ生まれの人にとっても、日本文化のエッセンスが織り込まれたいけばなに接した時に感じる心の幸せ。忙しい現代社会の中で、花は日常生活のオアシス。そんないけばなとともに60余年、世界最大の会員数を誇る池坊の最高職位である華臈職の中でも最高の華老を海外で初めて下賜された新橋和子さんに奥深いいけばなの真髄、魅力、さらにアメリカに於けるいけばなの活動状況などをうかがった。               【石原 嵩】
池坊の立花新風体いけばな

池坊の立花新風体いけばな

 華道の流派は財団法人「日本いけばな芸術協会」に加盟している流派だけでも365流派ある。その中でも500有余年の歴史に生き続ける池坊の歩みは、正にいけばなの歴史そのもの。聖徳太子の建立による京都の六角堂の門前には、いけばな発祥の地を表す石碑が建てられている。以来、連綿と受け継がれてきた池坊はまた、海外普及にも熱心で、故華道家元44世池坊専威宗匠は1957年11月に海外初の池坊支部をロサンゼルスで発足させている。
「花の心」を表現
 63年6月にアメリカに移住してくるまで、鹿児島、神戸、京都で20年余り池坊に打ち込んできた新橋さんは、初めてアメリカでいけばなを鑑賞したときの印象を「奥行きのない平面な感じで、とてもビックリしました」と話す。
 その後、現家元池坊専永宗匠により熱心な海外普及の努力が積み重ねられ、年に数回、本部(京都)より講師が全米に派遣されるようになり、基礎のしっかりしたいけばなが普及していった。
新橋さん(前列左端)と教え子ら

新橋さん(前列左端)と教え子ら

 「基本が固まって、初めて個性ある作品が生まれます。どんな作品でも、短い命を精一杯生きている『花の心』を決して忘れてはいけません」と新橋さん。
 池坊の支部は現在、アメリカ国内だけで40数支部を数え、日本人や日系人だけでなくアジア系、ヨーロッパ系の人たちも大勢、いけばなを学んでいる。また、白人だけの支部も多く、すっかり国際化して各地で花の心が見事に「開花」してきているようだ。
いけばなの哲学的要素
 もともとは僧侶や武士そして大店の旦那衆のたしなみだったいけばなだが、明治以降、女学校に華道が採り入れられるようになってから、いけばな人口は女性が圧倒的に多くなっている。アメリカでも事情は同じで、繊細な気配り、豊かな感性でいけばなに取り組んでいる女性が多い。
 こうしたいけばなの魅力についてたずねると、「『美』と『和』の芸術とでもいいましょうか、草花枝葉の調和のとれた美しさはもとより、『以和為貴』(和を以て貴しと為す)の精神を基本に花をいけ、森羅万象を表現していくところに妙味があります。日々、変化があり、日々が挑戦です」と、熱く語る新橋さん。優しさと強さを秘めた微笑みはいつまでも若々しい。
 忙しい現代で、花を見つめることはぜいたくな時間。毎日が新しい発見。限りある花の命を、最大限に生かす。個性が表現されたいけばな作品には作者の内面が花、枝、葉の一つひとつに体現されているようで、花を静かに鑑賞していると、そこには哲学的要素さえ感じさせる。
協同システム日本語学園でのいけばな教室

協同システム日本語学園でのいけばな教室

いけばなの普及と後継者の育成
 戦前から日系社会にはいけばなを楽しむ土壌があったし、戦時転住キャンプでも野で摘んだ草花を使っていけばなが行われていた。こうした文化的背景を持つアメリカでのいけばな普及発展にも心をくだく日々が続く。
 「日系二世の人にも優れた人がたくさんいますが、教授になって教えていこうという人が少ない。二世は英語にも不自由せず、良い仕事に就いているせいかもしれませんが、華道発展のためには指導者を増やしていくことは大切なことだと思います。人に教えることは自分の勉強にもなるから、教授になって教えなさいと諭しているのですが…」
 これまでに多数の教授資格者を育ててきた新橋さん。和風会を主宰し、ロサンゼルス支部では最も多い教授者を出すなど、支部会員の半数近くが和風会の流れをくんでいるという。
記念の軸を大切に
「日々新にして 花に和む」
 華道家元45世池坊専永宗匠から新橋さんに贈られた宗匠直筆の軸。2007年(平成19年)のロサンゼルス支部創設50周年を機に、華老を下賜された際に頂戴したもので、新橋和子さんの「新」と「和」の二文字を詠み込んだ記念の軸だ。
 「いけばなに心ひかれて60余年。戦争中の悲しく辛いとき、人生の壁にぶつかり苦難なとき…さまざまな苦しみを克服し、いつも心豊かに楽しい人生を過ごすことが出来たのは、いけばなに支えられ、励まされ、素晴らしい師と良き弟子たち、素敵な友人たちのお陰さまです。また、今は亡き主人の励ましと協力、子供たちの支えにも、心から『ありがとう』と述べたいと思います」
 いけばなに生きる感謝の気持を、いつも忘れない。        
【華老新橋和子さん略歴】
 池坊入門から正教授の資格を取得するまでは主に神戸市、鹿児島県国分市で活動。1962年、池坊大学付設華道専門学院専攻科卒業、63年に同専研科を卒業し、池坊華道専門学院文化研究所認定教授、同年、池坊華道芸術会会員資格を取得。66年の准華督取得から、華督、副総華督、総華督、准華老補、准華老を経て2007年、長年の華道発展に貢献したこと、多数の教授者並びに子弟を育成したこと、支部発展に尽力した功績などが高く評価されて専永宗匠から華臈職の最高位である華老を下賜されるという海外初の栄誉に輝く。

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