「人さらい」、そして人権

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 「あの夫婦は子供がいるから何とかもっているようなもんだ、子はかすがいだよ」なんて言われたら、子宝に恵まれなかった夫婦は別れる運命にあるのかといえば決してそんなことはない。むしろ夫婦円満なところが多い。DINKS(ディンクス=ダブル・インカム・ノー・キッズ、つまり共働きで子供のいない夫婦)が理想の生活スタイルという若い層も増えているのだ。
 子供への愛情を通して夫婦の仲が睦まじくなるのは大変結構なこと。しかし、何かの拍子に歯車が狂い始めると、子供を仲立ちにしたところで収拾がつかなくなることだってある。
 社会がグローバル化して国際結婚が珍しくなくなった半面、結婚生活の破綻にともない、日本人の親が子供を一方的に連れて帰国するケースがここ数年増えてきている。
 相手の同意を得ない「子の奪取」は「kidnapping=拉致」になり、米国では重罪。日米間には現在、分かっているだけで79件の事例がある。昨年9月には、福岡県で元妻から子供を取り返そうとした米国人男性が未成年者略取容疑で逮捕(起訴猶予処分)され、日米間の大きな社会問題に。
 片方の親に奪取された子供に面会したり連れ戻すための規定に「国際的な子供の奪取に関するハーグ条約」があるが、日本は先進7カ国の中で唯一の未加盟国。一方で、欧米人の感覚では、父母の双方に親権があると考えるのが普通のようだが、日本の民法では共同親権を認めていない。さらに、子供を連れ帰った親を犯罪者扱いにする文化は日本にはない、といった意識の相違もある。
 子供のころ、日が暮れても外で遊び続けていると、「早く家に帰らないと人さらいにさらわれるゾ」と大人から言われたものだ。北朝鮮による拉致や、ハイチ大地震の混乱に乗じて33人もの幼児を国外に連れ去ろうとしたケースをみると、「人さらい」は決して死語になったと言いきれない。
 大人の勝手で子供の人権が翻弄されてはならない。しかし、世界の現実はなお厳しい。【石原 嵩】

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