どこへ消えた「の」

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 たとえば自分の出身地のきょう、あすの天気はどうなのだろうかとNHKテレビで日本の天気予報を見る人も少なくないだろう。ひどく暑いと聞いても寒いと告げられても、日本に住む家族や友人、知人たちはどう耐えているのだろうかと思いを馳せてしまう。南カリフォルニアの穏やかな気候に思わず感謝してしまうのもそんなときだ。
 その天気予報で使われている日本語がおかしい。例をいくつか挙げると…。
 「雨脚(足)が強まる(弱まる)」—「雨脚」というのは、第一義としては〈雨が、降りながら移動する状態〉のことだ(現代国語例解辞典)。だから「雨脚が速い(遅い)」はあっても「雨脚が強まる(弱まる)」はありない。「雨の降り方が強まる(弱まる)」とでも言うべきところだ。
 「太平洋側ほど気温が上がる」—の「ほど」も落ち着きが悪い。この「ほど」は〈空間的な程度。大体の距離〉(同)を示すのだろうが、「程度」を表すために普通は「考えれば考えるほど」「美しければ美しいほど」などといったように動詞や形容詞につづく。ここも「太平洋に近い(ところ)ほど」というのがより良い日本語だ。
 「午前中は寒いですが、午後からは暖かくなります」—NHKの気象予報士たちは、形容詞にじかに「です」をつけて話すことを厭わない。ここでの「寒いですが」が幼稚に聞こえるとは思っていない。午前と午後では気温が違ってくるのだから、その違いを明確にするためには「寒い」に〈用言を受けて「だ」「です」に続き、断定を表す〉(新潮国語辞典)「の」をつけた方がいいということを知らない。「午前中は寒いのですが」と。
 「の」が消えているのは、実は、天気予報からだけではない。「行きたいですが、カネがありません」「食べたいですが、さっき昼飯を食ったところで」などのように、いまでは、日本人の会話のいたるところで「の」の消失現象が見られるのだ。
 日本語を雑に使う風潮を、特に公共放送NHKは、率先して止めなければならない。【江口 敦】

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