帰国して日本でのテレビ鑑賞の楽しみにNHKの日曜美術館がある。本来あらゆる芸術は鑑賞者が自分の感性で感じ取るもので、その感じ方は千差万別であってよいとされる。しかし一方、さまざまな角度から掘り下げた美術鑑賞のアプローチは「なるほど、そういう見方もあったのか」とあらためて作品の奥深さに感じ入ることもある。
 高度な科学分析で作者の意図を探ると驚くべき工夫や技巧が施されているのがわかる。毎週毎週紹介されるさまざまな展覧会は和洋を問わず幅広く奥深い。
 これら美術品の展覧会と少し異なるが、4週間にわたって展示される「毎日書道展」を見てきた。ロサンゼルス在住の友人二人から相次いで作品が入選して展示されることになったと連絡が入ったのである。
 第63回毎日書道展・東京展の場所は乃木坂にある国立新美術館。故・黒川紀章氏の設計になるこの美術館は建物そのものが美術品でもある。今回は国内外から約3万5000点の応募があり、そのうち約1万点余りが展示される。作品数の多さから期間中4期に分けて展示され、1週ごとに一部作品の入れ替えがあるらしい。東京展のあとは、関西展・四国展・北陸展…と巡回し全国10カ所で展示される。この書道展には優秀作品の展示のほかに書道の普及の意味合いも含まれているようだ。
 最近は海外からの応募も多く、賞に選ばれる作品も現れてきた。作品は墨の濃淡、前後のバランス、微妙な筆使い、全体を流れるリズムと調和など、優秀な作品はやはり素人が見ても心地よい。
 国内外をとわず、書いている文字や文章の深い意味合いよりもアートとしての作品に取り組む傾向が強いようだ。書が内容よりもアートとして取り扱われることで、より国際的になっているのかも知れない。
 3万5000点もの応募があり、その背景には何十倍もの書に親しむ人たちがいると思うとこの書道展の開かれる意義が感じられる。
 忙しく慌しい毎日のひとときを、墨をすり、心を静め、姿勢を正して筆を運ぶ。そのような心のゆとりをもたらしてくれる書道が海外にも広がってゆくのは嬉しいものである。【若尾龍彦】

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