歌のちから

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 歳末の日本で思いがけず、歌に声を合わせることが続いた。最初は、『上を向いて歩こう』だった。
 東京・銀座ソニービルの向かい、旧阪急デパートの一角に、東日本応援復興プラザが設けられている。被災の惨状を語る数多くの写真が展示され、支援のため被災地の物産を販売中だ。そのチャリティーイベントスペースで今月半ば、東日本復興応援企画として、第1回数寄屋橋音楽会が開かれた。鎮魂と復興への祈りをテーマに、フルートとピアノのデュオでのコンサート。その合間には気仙沼でのボランティア活動報告なども行われ、締めくくりは、演奏者も聴衆も一緒になって、『上を向いて歩こう』の大合唱。
 悲しみを胸に、それでも上を向いて…と皆で歌っていると、私だけでなく、周囲の人の目にも涙がにじんでいた。『上を向いて歩こう』は、まさに復興支援の応援歌となっている。
 九州では、『リンゴの唄』。
 「いま一度、お祖父ちゃんに会っておきたい」と、クリスマス休暇を利用して娘がケンタッキーからやって来た。家族で食卓を囲んだものの、認知症が進んで言葉が思うようにならない93歳の父には、孫娘と昔のような会話は難しい。そんな時、娘が歌を歌い始めた。
 ロサンゼルス生まれ、シアトル育ちの彼女だが、高校生の時に「シアトル敬老」でボランティア。毎土曜日の午後、カラオケの時間には高齢の入居者と一緒に歌ったのだという。終戦直後のこの流行歌を聞くと、父が大声で一緒に歌い始めた。同席の家族も、知っている者は歌で、知らない者は手拍子で参加し、一挙に賑やかに。続いて『炭坑節』『黒田節』『五木の子守唄』…とさまざまな歌に、またも父は歌や手拍子で参加。これまで見たことのないような満面の笑顔を見せてくれたのだ。
 悲しみに、喜びにと、歌の力を実感した今月。この大晦日、「紅白歌合戦」では、1977年のヒット曲『北国の春』が歌われると聞く。被災地に幸せな春が一日も早く戻ることを願いつつ、多くの人が耳を傾けることだろう。日本でも海外の各地でも。皆さま、どうぞ良いお年をお迎えください。【楠瀬明子】

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