偶然と必然

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 先日、何とも不思議な出来事が起きた。お昼前、定期的に通うジムに出かけた。3階はあらゆる筋トレができる器具がたくさん並ぶ。そのエリアを歩き始めた時に年老いたおばさんが、ちょっとすいません(もちろん英語で)と声をかけてくる。横には腿の筋肉を反復運動できる器具がある。足をかける台の長さを調節するネジのレバーが堅くて動かないので緩めてくれというのだ。
 回りには自分よりマッチョの男数人がトレーニングに汗を流す。彼らに頼めばいいのにと一瞬思ったが、タイミング的に声をかけやすかったのが、たまたま通りかかった自分だったのだろう。まるできつく絞め過ぎたビンのふたを開けるように握力で、えいっ! しかし固くて全く動かない。これではカッコ悪い。ふっと息を吐き、気合いを入れて再チャレンジ。渾身の力を込めた。するとネジが緩まった。おばさんは、本当に嬉しそうな顔でありがとうと何度も礼を言う。自分の顔もほころんだ。
 運動を終え、シャワーを浴び、着替えてジムを出た。ランチに向かう途中でガソリンスタンドに寄った。ポンプを給油口に入れた時、裏側で給油中の中年のおばさんが、 ちょっとすいません、と声をかけてきた。エネルギードリンクらしきボトルのふたがきつく締まって開けられないので、開けてくれと頼んでくる。
 回りに力ありそうな男たち数人が給油中だ。この時もタイミング的に自分がポンプを入れて一歩踏み出した時、おばさんと出くわした。ジムと同じ要領で、ぐいっと力を入れる。2度目にやっと開けることができた。おばさんは、サンキュー、サンキューと本当に喜んでスキップして自分の車に戻る。
 その後ランチでオーダーするいつものサンドイッチを掴む自分の手が少し赤くなっていた。痛みはない。そういえば長年プレーしているラグビーで自分の役目はとにかくパスすることだ。指、手首の筋力、握力は普段から鍛えている。それが役立ったのかもしれない。
 とにかくほんの数十秒で誰かのお役に立てて喜んでくれるのならお安い御用だ。気分もいいし、その日のサンドイッチはなぜか美味しく感じた。【長土居政史】

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