娘の遭難

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 キャンプに行った子供が、帰ってくると言った日に帰らない。連絡もない。胸騒ぎがする。もう、生きた心地がしない。こんな経験を2週間前にすることになった。
 成人した娘が友人とヨセミテに行った。水曜日にヨセミテに着き、これから携帯電話は通じないよ、3日後の土曜日に帰宅するからね、という連絡を受けた。ところが日曜日の夜まで待っても帰って来ない。月曜日には仕事がある。寝ずの夜が明けた。朝、職場に電話する。無断欠勤していた。そんな子ではない。何かあったと確信。ヨセミテのレンジャーに捜索依頼を出す。女の子だ。車が故障した、レイプされた、殺された、悪い想像が押し寄せる。夕方までに見つからなければ、ポリスリポートを出す決心をする。
 夕方電話が鳴った。電話の向こうで娘が泣いていた。生きていた。全身から力が抜けた。何やってるのよ、と怒鳴ろうと思ったが、お母さん、私が遭難したの、知ってた? と娘が言う。話はこうらしい。
 夕方何も持たずに一人で気楽にジョギングに出かけた。森の中は同じようなトレイルが幾つもあり、帰りのコースが分からなくなった。右往左往しているうちに、方向感覚を失う。夕闇が迫る。川に沿って行けばどこかに出れると推測し坂を降り始めると、滑って川に落ちた。ずぶぬれ。川の水を飲む。気温はどんどん下がって凍える。足元には熊と鹿の足跡ばかり。ついに森は漆黒の闇に。動いては体力を失って危ないと判断し、寒さと恐怖に耐え、石の上で一晩を過ごす。生まれて初めて、死ぬかもしれないと思った。
 夜が明けた。太陽の当たっている方を目指して坂を登る。人間の姿を18時間見なかった。そして、ついに捜索隊に出会った。そういうことらしい。
 とにもかくにも生きて還った。それだけでありがたい。レンジャーに感謝あるのみである。年間どれだけの遭難者を救い出してくれることだろう。
 全身傷だらけになって帰宅した娘は、また、激しく泣いた。楽しいはずのキャンプもまかり間違えば、生死を分ける事故にもつながる。皆さまもどうかお気をつけて。【萩野千鶴子】

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