日本語 7

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 「させて頂きます」という言い方がどうも好きでない。近年使用過多ではないか。この言い回しを安易に使う感覚と風潮がしっくりこない。
 四、五十年ぐらい昔は今ほど耳にしなかった気がする。要は「私ども反省させて頂きます」なんて言わずに「反省致します」でいい。自分の意志ですべき事はさせて頂く必要はなかろうに。謙譲の態度を示そうとする言い回しだが、猫も杓子もこれさえ使えばへり下って安全だとする安易な卑屈さが透けて見え嫌だ。
 「変更させて頂きます」などと一見低姿勢では出るが、その実は慇懃(いんぎん)無礼でかつ相手がどう思おうとやるぜという強引な押しの強さが透けて見える言い回しだ。
 しかし日本語の大家、丸谷才一の説では「日本語のプロといえる作家、司馬遼太郎によるとこれはもともと違う意味合いの言葉で、歴史的には真宗の教義から出たもので、われわれは総て他力により生かして頂いているという阿弥陀様のお陰に感謝して『息災に過ごさせて頂いております』などと使い、それが門徒近江商人が京、大阪に出て商いをする中で『明日届けさせて頂きます』という風に。これが関西から江戸に下り東京では特に昭和に入ってから多用された」という。丸谷氏もさせて頂くの言い回しは嫌いの由、それを読んだ時は単純にわが意を得たりと嬉しかった。
 現代はそういう信仰の精神の裏づけは関係なくなり、単なる語法というか誤用になっている。低姿勢に見せしかし慇懃な図々しさ、またこう言っておけば謙遜の態度で安全だ、この感じが嫌だ。過敏かな。
 確かにこの言い方がふさわしい場面もあることはあるので、自分も先輩たちを前に敬意を表す気持ちで、これを自然に使う時もたまにはある。
 それでも、とにかく自分は極力使わないと決めている。しかし周りにつられてつい言ってしまうことがあり、その時は内心あれっと後悔し、後ろめたい気分になってしまう。
 自分は「何々を述べさせて頂きます」でなく「何々を述べます」あるいは「今から講演会を始めさせて頂きます」よりも「今から講演会を始めます」と真っ直ぐ言いたいのである。【半田俊夫】

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