狐憑(つ)き

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 昔、子供の頃のこと、○○のお爺さんが狐に取り憑かれたらしい。などという話を聞いたことがある。
 隣村に従兄弟を訪ねていったまま夜になっても帰らず、みんなで大騒ぎをして探したところ、朝になって手足を擦りむき泥だらけになって帰ってきたが、一晩中どこで何をしていたのか尋ねても何一つ覚えていない。どうやら辺りの山に住んでいる狐に騙されて一晩中山の中を歩き回っていたらしい、というものである。
 先ごろ私自身、現代版狐憑き経験をした。膝の痛みを治療してもらおうと、鍼のクリニックに出かけたが、クリニックに入る数分前辺りから記憶が定かでなく、治療を受けて支払いを済ませ(たらしい)次回の予約をし(たらしい)クリニックを出て予定どおり市営電車の駅まで行った(らしい)。その後は携帯電話で娘に電話をした(らしい)。
 クリニックを出てから駅までは5分足らずにもかかわらず娘が電話を受けたのが1時間後、その間どこで何をしていたのか不明。迎えに来た娘の車でいったん職場に戻り、その後夫の車で病院に向かい救急で入院したのだが、これはすべて家族や急を聞いて駆けつけてくれた友人から聞いた後日談で、記憶が戻ってきたのは約8時間後で普通病棟にベッドが取れてからである。
 家族の話ではその間言語障害などは無く、ひたすら同じ質問を繰り返し、返事をすると頷きながら再び同じことを尋ねたという。CTスキャン、MRI、EEGといろいろなテストを受けたがいずれも異常なし。
 一過性脳虚血発作の疑いがあり、脳梗塞の心配もあったようだが、退院後ウエブ・サイトで調べたところ、一過性全健忘という原因不明の発作にも似ている。体力の低下やストレスで起こる症状ではないかというのだが、「忘れた」と「覚えがない」は全く別だと気がついた。あな恐ろしや。
 一泊二日のまずい食事付き、高い入院治療費の請求書付きで疲れて退院。狐のいたずらにしては高くつきすぎた。以後私なりに(?)正常に戻りましたが残業を減らす努力はしております。私事ながら乞うご安心。【川口加代子】

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