「そんな馬鹿な…」

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 世の中には、呆れて、馬鹿馬鹿しく腹立たしい話があるものである。
 友人宅のディナーパーティーに招かれて行った時のこと、T氏が「先だっておかしな話があってね」と話し出した。
 彼は、日が暮れてからあまり馴染みのない郊外の道を車で走っていて、左折をして50フィートも行かないうちにパトロールカーが赤いライトをフラッシュさせながら後ろからついてくるのに気が付いた。まるでどこかに隠れていたような現れ方だったと言う。どうしたのかと不思議に思いながらもほかに車も見当たらないので、車を端に寄せて停車すると警官が近づいてきて、運転免許を見せろと言う。
 「何か違反でもしましたか。そんな覚えはありませんが」と丁寧に対応すると、
 「サインを見なかったのかい。あそこは左折禁止だよ」「いや気が付きませんでした。第一この辺りは街灯が暗くてよく見えませんよ」
 「まあな、確かに暗い、しかし違反は違反だ。免許証を見せなさい」
 しかたなく札入れをポケットから出したが、人の名刺やクレジットカード、領収書、いろんなものが突っ込んであって免許証がなかなか見つからない。仕方なく一枚ずつ引き出して免許証を探しているうちに小さく畳んで入れてあった20ドル札が出てきた。すると警官はサッとその20ドル札を摘みあげて
 「次からは気を付けなさい」と言うなり、サッとパトロールカーに乗り込み走り去ったというのである。
 「えーっ、それってドロボーじゃないですか。その警官の名札を見ましたか。訴えるべきでしょう」
 T氏いわく、「暗かったし、あまり突然のことで分からなかった。僕は決して賄賂を渡すつもりじゃなかったんだ。偶然20ドル札がでてきたんでね。でもまあ違反チケットは貰わなかったし、僕は良いんだよ。チケットを貰えば20ドルじゃ済まないから…」
 予期しなかった警官の行為に一同「そんな馬鹿な…」なんとも腹立たしくて納得できない悪徳警官の話ではありました。
 この話の落ちは「札入れに入っていたのが百ドル札でなくてよかったね」【川口加代子】

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