徳をもって報いる

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 中国と日本が国交を正常化したのは、1972年。当時の首相であった田中角栄と周恩来によって実現に至りました。
 双方に多大な被害をもたらした日中戦争に対し周恩来は、
 「日本人民と中国人民はともに日本の軍国主義の被害者である」、
 として、過ちを犯した過去に言及するのではなく両国が共に発展を目指すための未来を見つめる発言をしました。
 また国民党の蒋介石は、「徳を以て怨みに報いる」として、終戦直後の中国居住日本人に対して報復的な行動を禁止しました。これは「大小多少、報怨以徳」という老子の言葉を引用したと言われます。
 それがいかに難しい問題であっても、たとえ相手が許しがたい存在であっても、たとえそれが小さく見える問題であろうとも、恨みに対しては徳をもって報いるという人間としての正義がそこに存在し、実行されたのです。
 「徳をもって報いる」という言葉の持つ力が広い中国で受け入れられ、中国は日本に対する賠償請求を放棄して日中の国交が結ばれました。
 考えてみれば私たちの日常は何かの交換の作業です。
 労働に報いるために給料をもらい、ボランティア労働も経験や感謝という報酬との交換です。
 食料を買うためにお金を支払い、公道を使うために税金を払うなど、多くのものを交換していると言えるのではないでしょうか。同じように、恨みと徳を交換するという考え方ができるでしょうか。
 「恨みのお返しは、徳をもって報いる」ことが中国の答えでした。
 であれば、中国から徳を頂いた日本は何で返せばいいのでしょうか? それはお金でも領土でもなく、徳を返すべきだと思います。
 恨みを返す連鎖は双方に不幸と障害をもたらしますが、徳を返す連鎖は双方に大きな幸福と発展をもたらすと思います。
 しかしながら徳を返すということは、行動では大変に難しい作業のように思われます。
 ですから、日常で訪れる交換の中で、徳を少しだけ混ぜてあげるところから始めるのはどうでしょうか。【朝倉巨瑞】

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