うれしいニュースである。今年のノーベル生理学・医学賞を京都大学iPS細胞研究所長の山中伸弥教授が受賞した。ノーベル賞の受賞は日本の国民にとってビッグニュースだが、今回は山中教授の言動がますますその人気に拍車をかけている。その研究成果の価値のみならず、インタビューでの応答は謙虚であり、日本の研究土壌を憂えての提言あり、科学的研究の本質をもついているからだ。
 賞賛に対し、
 「科学的な真理は何枚ものベールに覆われていて、科学研究はそれを一枚一枚はがしてゆくようなもの、共同受賞のガードン博士は厚いベールをはがして見通しを良くした。自分もその流れの中でたまたま運良くかなり重要な一枚をはがす幸運な研究者となった」
 「私のプロジェクトで働いている研究者の9割は5年の有期雇用で、プロジェクト期間が終われば次の職を探さねばならない。全員とまでは言わないが、短期雇用契約で仕事をする若い人たちが、自由に落ち着いて研究に集中できるような環境を望む」
 「まだこの研究は新しい技術、本当の意味で医学や薬の開発に役立つところまで来ていない」
 とリポートしているのは青山学院大学特任教授の猪木武徳氏である。
 山中教授は、教授というよりプロジェクトチームの仲間であり、リーダーたる自分はその研究環境を何とかするのが責務だと考えている節がある。
 学生時代から柔道、ラグビーとスポーツマンであった山中教授は、iPS細胞研究所への研究資金調達のためにウェブサイト「Just Giving Japan」に自らの京都マラソン完走を条件に寄付を募り、その寄付額は2000万円を超えようとしている。
 このような人がノーベル賞を受賞し、後進の研究者や日本の研究環境に発言する機会を得たことは、受賞以上の意義がある。国民や政府が彼の言葉に真剣に耳を傾け、本来の研究助成金の使い道や研究の支援システムを見直せば、本当に強い日本の再生につながるだろう。
 この機会に国全体で日本の研究環境を見直すことになればこんなに嬉しいことはない。山中教授、ありがとう。【若尾龍彦】

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