テレビと政治

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 「ただ今、テキサス州ダラスから至急報が入りました」
 眼鏡を外したアンカーマンは、カメラをしっかりと見据え、一瞬沈黙、そして静かに続けた。
 「私たちの大統領が今、絶命いたしました」
 1963年11月22日、ケネディ第35代大統領暗殺のテレビ報道。今も言い伝えられるこの「伝説の報道」の主はCBSテレビのウォルター・クロンカイト(享年92)。
 30分番組の最後のサインオフ、「And that’s the way it is」(以上が今日の状況です)。今もなおアメリカ人の耳元に残っている。米国民の信頼を勝ち取ったジャーナリストほど強いものはいない。大統領よりも信頼されていたアンカーマンに歯の立つものはいなかった。
 歴史学者で編集者でもあるダグラス・ブリンクリーの新著、「Cronkite」。膨大な資料、映像を検証、クロンカイトとその時代を再現している。
 米メディアは、クロンカイトの死後、本格的なサイバー時代に突入した。
 プリント・メディア(新聞、雑誌)は厳しい局面を迎えている。70年代以降少なくとも速報性という点では、テレビはその主役の座を新聞から奪ってしまった。
 そのテレビもオンライン・ジャーナリズムの急成長の前にその座を脅かされかけたが、テレビは24時間ニュース報道のケーブル局に活路を見出している。
 大統領選挙では、ケーブル局は持ち前の強力な取材網による情報収集・伝達に加え、選挙状況分析・予想、さらには公開討論会を取り仕切る「総元締」役まで演じている。当確を真っ先に「認定」するのはCNNだ。
 テレビの役割を知った大統領候補者たちは競ってテレビのスポット広告に巨額のカネを投じている。皮肉なことに大統領選挙が史上最大の「金権選挙」と化しているのはテレビのせいなのだ。テレビの弊害に一番危惧の念を抱いていたのはクロンカイトだった。
 「テレビは候補者たちにスポット広告を売ってはならない。それはメディアのするべきことではない。そのカネに手をつけてはならない」
 「正論」だが、クロンカイトの「遺言」に耳を貸すものは一人としていない。【高濱 賛】

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