カンガルーケア

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 「手伝い頼む」という娘の依頼で、出産手伝いにケンタッキーに飛んで来た。歳月とともにお産事情も変わるようで、病院には、赤ちゃんと母親が抱き合う「スキン・ツー・スキン」のポスターが幾枚も。出産後は母子同室で、母乳育児を促進するために必ず2時間おきに母乳を与えるように指導が行われていた。これらは、出産直後の母親と新生児が直接肌を触れ合わせることを特に重視する、「カンガルーケア」の一環だ。
 カンガルーケアは1978年、南米コロンビアの首都ボゴタに生まれた。早産による未熟児を看護するのに保育器の数が足りず、出産直後の子供を母親の胸で温めることで保育器に代えて、多くの未熟児が救われた。そればかりでなく、乳児を遺棄する母親の数も減ったという。
 カンガルーケアの成果が世界中に発信されると、そのアイデアは各地のNICU(新生児集中治療室)に導入されただけでなく、母と子の関係の向上や母乳育児促進から、正常分娩にも取り入れられるようになった。アメリカでは90年代に導入され80%を超すNICUで採用されるほか、正常分娩にも広く普及している。
 カンガルーケアの思いがけない利点の一つに、父親の育児参加がある。事前に娘夫婦が受けたクラスでは、母親同様のスキンシップが父親にも推奨されていたらしく、裸の胸に乗せた小さな息子に見入る父親の姿はほほえましいものだった。
 カンガルーケアは、出産直後の母親の胸に新生児をうつぶせに置くことから始まる。
 90年代後半に導入された日本でも、今では病院・産院の多くが採り入れているという。しかし日本ではこの数年、母親の胸に置かれた赤ん坊に異常が起きて手遅れとなる事が何件か生じた。いわゆるカンガルーケア事故だ。乳幼児突然死症候群の場合もあろうが、人手不足から、カンガルーケアの名のもとに医療従事者が安易に子供と母親の傍を離れてしまった事例があるともみられ、司法の判断が仰がれている。
 出産の喜びが一転して悲劇の始まりとならないためにも、細心の注意が必要とされるカンガルーケア。さて30年後の出産現場はどう変化しているだろうか。【楠瀬明子】

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