日本語がかもし出す色合い

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 日本語には独特の微妙な意味合い、色合いとでも呼ぼうか、が込められている言葉が数々ある。これが日本語の面白い味の一つで一例が「者(もの)」。具体例は後述するが、この類の言葉は西洋言語にはほとんど無いので、その色合いは一語で翻訳するのは困難だ。(中、朝の言語には似た例があるので他のアジア言語も同様にありそうと推察する)
 「者」は人のことだが、単なる人でなく多くの場合が良くない類の人、あるいは部外者的な人に対して上から目線で使われるという色合いが持たされている。
 例えば、いなか者、裏切り者、臆病者、おたずね者、変わり者、嫌われ者、くせ者、すね者、粗こつ者、たわけ者、流れ者、怠け者、憎まれ者、馬鹿者、半ぱ者、引かれ者、卑怯者、ひねくれ者、よそ者、悪者、などなどきりが無い。
 正直者、働き者、利口者、律義者などの良い例もあることはある。しかしこれらは共通して上から目線の見下ろして褒める言葉で目上には使わない言葉だ。そこで自分を名乗る時に「私は山田と申す者です」と言うことで謙遜の意味合いが生ずる。
 こういう色合いとは日本の文化と歴史から生まれたもので、封建身分制がなくなった現代の日本社会においても、その独特の意味合いは死なずに命を保って使われている。
 「者」は人のことであるから英語ならパーソンかというと、パーソンには良い悪いの意味は無いので者はパーソンではなく、者に当たる英単語は見当らない。実際の英語では、者はパーソンに形容詞を付けたり、あるいは意味合いを込めた文にしたりして表現することになる。
 英語でも悪漢とか卑怯者とかそのものだけを表す単語はあるが、者のように単に人のはずだが専ら一定の意味合いで使われる味わいの単語は無いのだ。何気なく使っている言葉でも日本語は裏に漂う文化と歴史が色濃く面白い。
 前回に続き台湾万葉集から1首を—
 やつれたる眉を君には見せまじと心静かに黛(まゆずみ)を引く
【半田俊夫】

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